二度聞き
あれは7歳くらいだったか、クリスマスイブ。
両親に、寝る前に、プレゼント何がほしい?
と聞かれた。
でも今夜はもうクリスマスイブ。
デパートもおもちゃ屋さんもしまってる時間。
ぼくは、好きなように答えてはサンタさんも困るだろうと思った。
うちは、酒屋をやっていた。
その頃は、瓶のジュースをコップで飲むことはあっても、
缶のジュースはちょっとぜいたくな存在だった。
それを丸々1本自分で飲んでみたい。
そしてそれは確実にうちの店の大きな冷蔵庫にある。
ぼくは「缶ジュース」と答えた。
母は「えっ?」と聞き直した。
「缶ジュースでいいと(=いいの)?」
「うん」
「クリスマスプレゼントよ?」
「うん。缶ジュースがいい」
ぼくは答えた。
次の朝、まくらもとには、
オレンジよりもさらにレア感のある、
グレープの缶ジュース(今より細い、250mlの)が置いてあった。
二度聞きした母と父は、
ぼくがたとえばもしも「“億万長者ゲーム”がほしい!」とかって言ったら
どうするつもりだったのだろうか。
夜中でもあいてるおもちゃ屋さんを知っていたのか。
それともイブの翌朝ではなく、
クリスマスの翌朝に枕元にサンタさんが届けてくれる予定だったのだろうか。
いまだに母に聞いたことはないが、
不思議な話だ。
そのときぼくは「えっ?今から好きなもの言っていいと(=いいの)?」と
二度聞きはしなかった。
でも、今度母にウン十年の月日をへた今、
ずいぶんインタバルの長い二度聞き、
してみようかな。
なにか秘密があって、ほんとになんでも用意できたのに、ぼくは気をつかいすぎたのかもしれない。
いやいや、気をつかったり、いい子になろうとしたわけではない。
ぼくは初めてひとりっきりでグレープの缶ジュースを飲めて、
それはとびきりうれしかったのだ。
そして、クリスマスイブの夜にもかかわらず
「なんでもいってごらん」と言ってくれた両親のいる寝室の風景を、
クリスマスだけじゃなく一生のプレゼントにもらったのだ。
道山智之