あっちの人 ③
「ども、岡部です!」
度のキツそうな眼鏡の奥から、ヤンチャな眼が笑う。
コピーライター長沢岳夫さんの事務所で
初めてお会いしたのはいつだっただろう。
もはや、遠い遠い記憶だ。
『コピーライター 岡部正泰』
2017年、享年70歳であっちの世界に逝ってしまった。
1970年代から80年代、サントリーやPARCO、
JR(その当時は国鉄と言った)でキレのあるコピーを連発、
各広告賞を総ナメにしていた長沢さん。
岡部さんは長沢さんがいた会社の後輩だったという。
「俺は長沢さんの弟子、君は眞木くんの弟子だろ。
弟子どうし仲良くしようよ」と二人で飲みに行った。
確か、原宿界隈だったと思う。
「飲む前にさ、チョッとこれやろう!」と、
ゲームセンターにドカドカと入っていく。
当時、世間を席巻していたインベーダーゲームだ。
「ハマってんのよ、最近」と、ピコピコ始めた。
上手い、メチャクチャ上手い!
次々に上から襲ってくるインベーダーを
気持ちよく撃ち落としていく。
30分、40分、とうとう60分経過……
私はすっかり飽きてしまう。
「あ、あの~、飲みは次回にしましょうかね?」
岡部御大は、目をひんむいて、画面を凝視して、
「い、いま、チョッとやめるわけには……」
「ですね。お取り込み中みたいです、ね。でわ!」
と、飲みを諦めて別れた。
少年のように夢中になっている中年オジサン。
岡部さんはコピーだけでなく、漫画も描いた。
味のある絵で、TCCの会報に4コマ漫画を連載していた。
岡部さんの書くコピーも、どこかチャーミングだった。
コピー年鑑で、みてくださいね。