あっちの人 ⑤
「シバッち、相撲好きかい?」
「好きですよ!」
「ほな、両国、行こか」
マス席かな、と思ってワクワク、国技館へ行くと、
なんとマス席の前、土俵下の砂かぶり席!
しかも東の2列目だ。
目の前には審判員の大きな背中があって、
力士の背中の毛穴まで見える!
飲み食いは一切できないけれど、
維持員席という超迫力のVIP席だった。
「1取り組み、ン円でな。
負けた方が次の取り組みの優先権を持つ。
ほな、ワシからいくで!」
ちょうど野球賭博で史上初、NHK中継が
中止になってしまった大事件のあとだ。なのに、
反省と自粛の土俵下で、勝敗を賭けようとする。
「ちょ、ちょっと、友さん!
これって、マズくないっすか?!」
『アートディレクター 長友啓典』
「博報堂を辞めるそうやないの」と、
友さんから電話がかかってきたのは2007年末の頃。
「ちょうどえ~わ。クリネタ始めるで~!」
博報堂を辞めてフリーになるタイミングだった。
新雑誌「クリネタ」を春から刊行するから
編集団に入れ! 出資もせい!といきなりの要請。
なんか、追いはぎにでもあったような……。
酒場での飲み話だった雑誌が、ホントに動き始めた。
年4冊の季刊誌で、昨年末でちょうど10年、
40号の記念すべき年になるはずだった。
なのに昨年3月4日、享年77歳、
38号を残し、友さんはあっちの人になってしまった。
もうすぐ一周忌を迎える。
ここに、何を書いたらいいのか……。
あまりにもすごい人だった。
銀座にン億円使ったという伝説。
夜の酒場を、ブレーメンの音楽隊のように
知らない人まで引き連れて飲み歩いたという。
新宿ゴールデン街では、
かの女王、美空ひばりと歌いあった。
カラオケは、最初から最後まで石原裕次郎1本!
「美味しいお店は、食べログより長友に聞け!」
という食い道楽。「アササン」と呼んで、
雨の日も風の日も、毎朝欠かさずウオーキング。
年間100ラウンド!
亡くなる前まで熱中していたゴルフ。
広告界、アート界はもとより、
歌舞伎、相撲、芸能界、文芸、出版、スポーツ……、
友さんの幅広い人脈があればこその「クリネタ」だった。
TCCの事務局に寄贈しています。
お時間のある方は、パラパラとめくってみてください。
本日で私のコラムは終了です。
読んでいただいた方、ありがとうございました。
来週は、斎藤春樹さんにバトンタッチします。
◎お知らせ
『長友啓典と黒田征太郎が面白がって造った広告物展』
・日時:3月3日(土)~4月8日(日)
11:00~20:00(毎週火曜・水曜休み)
・会場:黒田征太郎「KAKIBA」
大阪市中央区西心斎橋1-6-14 BIGSTEP地下2階
06-6125-5549
・入場無料
後援:FM802/FMCOCOLO