自分に会うために、迷子になろう。
佐久間英彰くんからバトンを引き継ぎました、丸原孝紀です。佐久間くんと出会ったのは就活のときなので、かれこれ20年近い付き合いになります。出会って間も無くお互い広告会社に就職したので、広告との付き合いも20年近くになりますね。
広告の仕事というのは、クライアントからの課題によって考えることもやることも違うので、飽きることがありません。そのせいか、20年近くキャリアを積み重ねてきたという自覚もありません。仕事をはじめたときと変わらず、新鮮な気持ちでバタバタしているうちに、いつの間にか同じ道を歩き続けていた、という感じです。
気持ちは変わっていないつもりでも、同じ仕事を続けていると、どうしても生き方にその影響が出てくるものです。広告はクライアントあっての仕事。まずはクライアントのことを考え、そしてその先にいる生活者のことを考えます。誰かのことを考える。いろんな人のことを、しつこく、考え続けるのです。
そんな日々を過ごしていると、ふとしたときに、自分というものがわからなくなっていることに気づいたりします。特に休みの日なんかにボーッとしていると、突然、自分の中から湧き上がってくるものの小ささに気づいて、呆然としてしまうときがあります。
最近は「マインドフルネス」なんかが流行していますよね。心を鎮めて内観するようなことができればよいのかも知れませんが、もともと落ち着きがない性格なので、静かに自分を見つめるなんてことはできません。じっとしていられないのです。
では、虚しくなったときや、モヤモヤしたときはどうするのか。億劫な気持ちを家に閉じ込めるような気合で、身軽な格好で外に飛び出します。そして、あてもなくブラブラするのです。で、あえて迷子になります。時間があるときは、いちども訪れたことのない、なんてことがない街に出かけたりもします。
自分を見つめることは苦手でも、外で目に入るものはいちいち興味深く、気になってキョロキョロしてしまいます。見るというより、観察ですね。宇宙人ジョーンズにでもなったような感じでしょうか。そんなふうに歩いているうちに、普段ないがしろにしてきた自分について、いろいろな思いが、ぷかり、ぷかりと浮かんできます。
「あの坂の上は空が広いなあ。いまは苦しいけど、辛抱し続けたらスカッとするようなことがあるかもなあ」
「お、キャリアカーだ。そういや、小さいときはキャリアカーのミニカーがお気に入りだったなあ。どこかに売っていたら買ってみようかな」
…なんて、目に映るものを通して、時間を超えて自分と対話することができるのです。ちょっと変かもしれませんが、実に、ゆたかな気持ちになれるのですよ。国内を旅行するときなんかは、常にレンタルサイクルがないかチェックします。自転車だと、素早くウロウロできますし、迷ってもスピーディーに戻ることができるので、積極的迷子によいのですね。
こう書いているうちに、ウロウロしたい気持ちでウズウズしてきました。街でウロウロしている私を見かけても、声はかけないでくださいね。きっと、自分とのおしゃべりに夢中だと思いますので。
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