リレーコラムについて

5.日本語のために英語を書く。

味村真一

広告業界には「外資畑」なるものがある。
数年間外資系の会社に所属していたら、
なぜか「外資の人」として、その筋の仕事がくるというものだ。
ありがたいことに僕も5年間、(半)外資系代理店にいた経歴のおかげで、
そういった案件が来ることが少なくない。

ただし英語はからっきしなので、毎回、翻訳家の方に頼りきりになる。
そこでの会話(というかダメ出し)に発見があって面白い。

彼らに刺激を受けて始めたのが、
「日本語コピーを書くために、一回英語に翻訳してみる作戦」だ。
それもグローバル案件ではなく、国内案件のコピーで。

なぜなら、英語にすることで思考の解像度が高まり、
曖昧だったところがクリアになるからだ。
これは英文が和文より言葉の数が多く、意味に厳密なことに理由がある。

名作を例に出してみる。
「年賀状は、贈り物だと思う。日本郵便」
言わずと知れた岩崎俊一さんのコピー。
何も入らない薄い紙に、あなたを入れられると定義した思考の妙もさることながら、
僕は「思う」の使い方も、名作である理由のひとつだと捉えている。

ここでの「思う」は、あえて訳すなら「I Think」、意志である。
日本郵便は、年賀状は贈り物だと信じている(確信している)。に近い。

対して未熟なコピーライターが表層を真似て書いてしまいがちな
雰囲気コピーの語尾につく「思う」は、「Maybe」であることが多い。
断定できない、自信がないがゆえの、たぶん、おそらく、気がする、のような意味。
同じ「思う」でも全くの別物だ。

もちろん、意味を明確にしすぎないことは日本語の良さでもある。

谷崎潤一郎は、ひとつの言葉に色々な意味を含められる
多義性こそ日本語の長所だと言っているし、
最果タヒさんは、感情は本来言葉におさまるものではなく
複雑な感情を言葉に押し込むのは、暴力的な行為だと語っている。

D.A.Nの櫻木大悟さんがやっている、
メロディに合わせて適当英語で一回詩をつくって
それと似た響きの日本語を探して置き換えていく作詞法は
今の時代にとても合っていると思うし、
百人一首で言えば「あしびきの 山鳥の尾のしだり尾の
長々し夜を ひとりかも寝む」のような、
意味よりリズムと質感を重視した作品も魅力的だ。

それでも。アウトプットの言葉は、
映像や音楽やビジュアルと溶け合うものが
今の時代にふさわしいと思うし、
表現はもっと、理解から逃れるべきだと思っているけれど。

コピーを書く過程においては、
自分の思考を明確にしておいたほうがいい。
一字一句、その意味を答えられるほうがいい。

日本語を英語にすると見えてくるものがある。
これは僕の中で、けっこう大きな発見だった。
ふたつの言語を行き来してみることは、英語が苦手な人でもできる。
書いた言葉の意図を明確にしていくことが目的だから、
自分の語彙力の範囲でやればいいのです。

(ちなみにこの画像はOasisの好きな曲名を歌詞のニュアンスも汲み取りつつ
ハイパー意訳したもので、何の役にも立たないただの趣味です…)

一週間、お付き合いいただきありがとうございました。
万一完走できず、数十年続いたリレーコラムの歴史を
終わらせてしまったらどうしよう…と戦慄しながらの毎日でした。
土日という名のロスタイムまで使ってしまいすみません。

来週のコラムは、新人賞同期である
エフエム群馬の原壮俊くんにお願いすることにしました。

壮俊くんは、犯人の声を使った詐欺撲滅のラジオCMという
メタ的なアイデアで新人賞を受賞した
新しいタイプのコピーライター。そして360°いい奴です。

では壮俊くん、よろしくお願いします!

neuron 味村 真一
mimura@neurontokyo.com

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