俺の青春が終わったとき
それは、俺が三十路を少し過ぎたある春の日のことだ。
草野球チーム「ホームランズ」を率いる俺は、
心地よい風を感じながら、多摩川近くのグラウンドに立っていた。
相手チームは、仲畑広告制作所。
イキのいい若手がズラリ顔をそろえている。
よし、相手にとって不足なしだ。
1回の表。
1、2番が凡退し、3番打者の俺が打席に立つ。
2球ほど見送る。おお、なかなかいいストレートだ。
しかし、その程度の球威で俺を抑えることはできやしない。
3球目、アウトローいっぱいのストレートを思いっきりぶったたく。
打球はきれいな弧を描き、ライト前へのクリーンヒットとなる。
イチローばりの、見事な流し打ちだ。
こんなとき、俺は俺を心の底から誉めてあげたくなる。
顔もついついほころび、余裕でファーストベースへ。
そのときだ。
信じられない光景が俺の目の前で起こったのだ。
ライトから、矢のような送球がファーストへ返ってきた。
「アウトー!」という失笑まじりの審判の声が遠くで聞こえる。
ファーストベース手前で呆然と立ち尽くす、俺。
ライトゴロ。
思えば中学時代、野球部員だった俺は、チームの盗塁王でもあった。
かつ、小学校の頃から運動会ではずっとリレー選手でもあった。
つまり「足」には絶対的な自信を持っていた。
その俺が、言うに事欠いてライトゴロである。
俺は考える。
野球というスポーツにおいて、もっとも屈辱的なアウトとは何であろうか?
見逃し三振か?
いやいや、次の打席でぶちかますために、
彼はあえてこの打席を捨て、球筋を見極めていたのかもしれない。
読売巨人軍元木選手にかくし球でやられることか?
いやいや、あんな野球センスのかたまりのようなプレーヤーにやられるなら、
本望でさえある。
ライトゴロ。
救いのないアウトである。
生から死へ。まさに天国から地獄。
自らの過信と引き換えに手に入れたものは、例えようのない敗北感のみ。
トボトボとベンチへ引き返す俺。
あの、日本人特有の意味のないニヤニヤ笑いを浮かべながら、
俺は思ったのだった。
今、この瞬間をもって、俺の青春は終わった。
完全に終わった。
栄光の日々よ、俺をやさしく抱きしめておくれ。
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