オバチャン殺し
そう、何を隠そう、俺はオバチャン殺しである。
若いオネーチャンにモテた記憶はあまりないが、
なぜか俺は昔からオバチャンたちに人気があった。
八百屋のオバチャン、ラーメン屋のオバチャン、
自転車屋のオバチャン、親戚のオバチャン、
大家のオバチャン、新宿二丁目のオバチャン。
ありとあらゆるオバチャンに俺は可愛がられた。
20代半ばのことだ。
大学を卒業して2年間勤めたプロダクションを、
「すいません、飽きました」と言って辞めた。
なんのあてもなく、辞めた。
プロダクション時代に知り合ったデザイナーや
イラストレーターから細々と仕事をもらい、
しかし雀の涙ほどのギャラでは当然食えるわけがない。
フリーとは名ばかりの、単なるプーである。
そこで俺はバイトを始めた。
原宿にある焼き鳥屋で、夜の9時から深夜2時まで
「へい、らっしゃい!」と威勢のいい声を張り上げ、
焼き鳥を焼きまくる毎日。
その店に名物オバチャンがいた。
豹柄のパンツをぴっちりとはきこなし、
ニコニコ客に応対する、恰幅のいいオバチャンだ。
顔はトドに似ていた。
俺たちバイトは仕事が終わると後片付けに入る。
暖簾をさげたり、床やトイレを掃除したり、
そんな作業だ。
そこへ例のオバチャンが、誰にも気づかれないように
スーッと俺に近づいてくる。
そして何の言葉も交わされることなく、
オバチャンの手から俺の手へ
5千円札が手渡されるのである。
もちろん正規のバイト代とはまったく別に、である。
しかも毎日。
他のバイト君たちがもらっている気配は全然ない。
当時の25歳のプーにとって、5千円は偉大である。
おかげで俺は、そのへんの同い年のサラリーマンより
ずっといい酒を飲むことができた。
原宿「松島」のオバチャン、元気ですか。
おかげで俺は、今もこうして生きてます。
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