リレーコラムについて

しばりょーを、どうぞ。

黒澤晃

こんにちは。
今日は、<しばりょー>、つまり司馬遼太郎のお話です。
大学での専攻が、日本史(特に、幕末史)だったので、よく読みました。
読み始めると、もう、止まらないんですよね、ぐいぐい、引き込まれていって。
そして、読み終わると、爽快になる。

何年か前に、会社の仲間4,5人と四方山話をしていた時、たまたま、
<しばりょー>の話題になったんですが、なんと、全員読んだことがないと判明。
ウッソー、と私が大驚愕すると、「だって、デザイナーっすから、おれ」「寝てましたから、歴史の授業」「なんか、漢字が多そうじゃないですか」などとの大反撃をうけて、もう、大脱力してしまいました。
しかし、よくよく考えてみれば、確かに、小・中・高の歴史の授業は、起きてることがつらいほどつまらなかったし、やれ、ビジュアルだ、音楽だ、タレントだ、横文字だ、と格闘している業界人に、<しばりょー>は、遠いかもしれない。
でもでも、誤解があるんですよね。<しばりょー>が書いているのは歴史じゃなくて、人間なんです。大河のような時の流れのなかで、人間がどんな夢や、希望や、翻弄や、挫折や、栄光や、死や生を味わっていったか、いわば、過去の事実にもとづいたハーレクイン・ロマンみたいなものなんです。確かに、ハーレクインより、漢字は多いかもしれないけど。

後日、私も、反撃には反撃を企画。とりあえず、一冊は読んでみたら、作戦を開始。
で、何から、始めたらいいの、とリアクションがあれば、しめたもので、
そういう時は、<竜馬がゆく>か、<燃えよ剣>をおすすめしたもんです。
結果、これが、さすが、司馬マジック、ほとんどの人が、はまってしまうんですね、ずっぽりと。
さきほどのデザイナーさんなどは、想像を超えるはまり方で、「この夏、読みまくりますよ、いやー、なんか人生変わる感じ」と、目に星がキラっと。ほらほら、読まずギライだけだったんじゃないと快感にひたりつつ、夏の終わりごろに、ビールをふたりで飲んでいると妙に元気がない。
「いやー、死んじゃったんですよ」
「え、誰が」
「竜馬が」
「そう」
「今日、読み終わったんですよ、<竜馬がゆく>全巻。なんかこの夏、ずっと、竜馬と生きていた気がして、淋しいんです」
そうなんですよ、共に生きることができるんです、その主人公と活躍したその時代とを。それが、<しばりょー>のエッセンスなんです。

この頃、歴史アレルギーの妻(元デザイナーです)にも、おまえも、教養というものを身につけた方がいいんじゃないの、そろそろ、と、無理やり、読ませたところ、
これまた、異常にはまってしまい、新選組の土方歳三のフリークになってしまいました。以来、土日、ごろごろしていたい私に、高島屋で司馬遼太郎展やってるのよ、土方の愛刀が出ているのよ、いきませう、などと、妙に歴史に積極的な女に変身してしまいました。

11月1日に、司馬遼太郎記念館がオープンします。記念館建設募金には、ささやかですが、私も協力させてもらいました。今後、関西方面に行く時は、ぜひ、立ち寄りたいと楽しみにしています。

ロマンがどんどん少なくなってゆきそうな時代のベクトルのなかで、<しばりょー>作品の登場人物たちは、私たちを、やさしい眼差しでみつめているような気がします。

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