あるコピーライターの話:3
やっと打ち合わせが終わりました。水曜日のうちに書き込みたかったんだけど、日付は木曜日になってしまいました。サッカーのイタリア戦は、どうなったんだろう?あとで、ビデオ観ようっと。
で、今夜も僕の友人の、あるコピーライターの話を。それは今年の春の終わりのこと。彼の所に、ある流通系のクレジットカードの仕事が入って来たそうです。いま大人気の癒し系のタレントを起用して新しいイメージで展開したいので、コピーも去年のものとは大きく変えたいという依頼だったそうです。最終的な打ち合わせを撮影当日に現場で行うことになり、彼は都内某所にある大型スーパーに出かけて行きました。コピーライターとして、そして出演者として、です。そのCMの監督とは以前に何度か仕事をしていたこともあり、主役のタレントに見とれるオヤジその3の役で出てくれないか、という依頼を引き受けたとのこと。撮影は閉店後の店内で行われていました。撮影の様子が気になりつつも、控室で得意先の担当者にコピーをプレゼンテーションする彼。気に入ってもらえたようで、最終的には持ち帰って社内で判断してもらうことになりました。あとは撮影を残すのみ。絵コンテでは彼が、カードを口にくわえたタレントに思わず見とれてしまうというものだったらしいです。彼女の目を見つめながら、どんな演技をしようか?コピーライターのくせに、そんなことを考えていたそうです。夜中の三時を過ぎた頃、やっと彼に声がかかりました。控室から店内の撮影場所へと進み出ます。スポットライトとカメラに囲まれて、さあ本番。ところが居なかったらしんです、そのタレントさんが。癒し系の笑顔と見つめ合うはずが、彼の目線がカメラの目線になるので、彼だけは絡みのシーンが無かったそうなんです。監督の「ちょっと表情が固いよ!」の声に負けるものかと思いながら、彼はカメラを見つめながらの演技を何回も続けていたそうです。結局その癒し系の笑顔には会えないまま、撮影が終了したのは朝の四時を過ぎた頃でした。
後日、プロデューサーから彼に電話がかかってきたそうです。「すみません、例のコピーの話なんですが、社長の考えで去年のままでいいじゃないかという話になりまして・・・本当に申し訳ありませんでした。」・・・完成したCMを、僕もオンエアで見ました。そこには、画面中央の奥で少しボケ気味ながらも懸命に目をパチクリさせて演技をする彼の姿が、一秒半ほど映っていました。
この話には続きがあります。せっかく話題の癒し系タレントと共演(本当は画面の中だけでですが)したんです。ちょっとくらい自慢したくなる彼の気持ちも
分からないではありません。で、それから女のコと飲む度に話したらしいんです。「俺さ、この前CMでさ、あのタレントと共演しちゃってさ・・・」すると、ほとんどのコが同じ事を言ったそうです。「あ、アデランス?」そうです。
その癒し系の人気タレントは白衣を着て、その会社のCMにも出ていたんです。
彼は・・・泣いていました。では、また明日。
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