和菓子屋の家族 後編
第3回
(あのー、父と母の名誉のために言っておきますが
この出来事は今から大体25年くらい前の
出来事ということを前提に読んでくださいね。
そう、あの頃って、こんな贅沢なもの
なかったはずですよね?)
で、いよいよ、うすーくスライスされた
肉が運ばれてきました。
もうお分かりかと思いますが、しゃぶしゃぶです。
父と母は、その肉を見て見ぬふりをして動こうとしません。
僕は、すぐに隣のテーブルに目をやりましたが
よくわかりません。
そこで、凍りついてしまった父と母に
「この煙突がポイントではないだろうか」と
タジマハールの屋根をさして助け舟を出してみました。
さっそく父と母は肉をおもむろにつまみあげ、
タジマハールの煙突の側面にくっつけ細かく動かしてみると
「ぶしゃ、ぶしゃ」と、肉がはじけるような音がしました。
そして、「そうかー、それでしゃぶしゃぶと言うのだな」と
家族全員が深く肯いたのです。
でも、やっぱりしっくりこない。
で、煙突のまわりに張ってある
お湯から出ている湯気にかざすのでは、とか、
しまいには、タジマハールの煙突から中へ落としてみろ、だとか
仲居さんやまわりのお客さんに悟られないように
この秘密実験はしばらく続きました。
***
僕は、この出来事を決して恥じているのではなく
さらに言うならば、煙突に何かヒントがあるのではないかと
必死になって解決の糸口を見つけようとしていた
自分を誉めてあげたいし、もしかしたら
僕なりの発想の原点は
こういった普通の環境にあったのではないかと
真剣に思ったりしています。
じゃ、明日は社会人になってからこんな人がいた。です。
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