リレーコラムについて

でっち修行時代の先輩

鵜澤敏行

第4回

まだ、お話ししたい事はたくさんあるんですが…。
何となくどんな家族に囲まれて育ったのかが、
お分かりいただけたでしょうか。
で、今日は、社会人になってからこんな人が近くにいた
というお話です。
***
僕は、一応大学4年の時に、人並みに就職活動をして
就職口も見つけていましたが、
あまりにもお決まりのコースに疑問を持ち、
一生やるかもしれない職業について、恥ずかしいのですが
卒業間際になってやっと本気で考えるようになりました。
結論は、本当にやりたいと思うことをやろうでした。
実は、中学生の頃からコピーライターという
職業について非常に強い興味を抱いていたのですが
どうしても芸能界のようなイメージがあって、
僕のような凡人が近づいてはいけないような気がして…。
卒業間際というのも逆に思い切ったことができたんだと思います。
コネも無ければ、実績もなし。だめだったら、また考えよう
といった行き当たりばったり主義でコピーライター事務所の
アシスタントからはじめることにしました。
そこに、同じくアシスタントとしていらっしゃったのが
前回のコラムを担当された後藤さんです。
***
ちなみに、後藤さんを知らない方のために、
ちょっとご紹介をしておきます。
年は30後半、男性。ちっちやくて、ふとり気味。
なぜかきらきら輝いた目がとても印象的。
頭はボーズで、顔は髭だらけ。
(本人は、YAZAWAのつもりですが)
先輩に対して失礼かもしれませんが、
動物にたとえるとウーパールーパーによく似ています。
***
そんな後藤さんと一緒に、
来る日も来る日もコピーと格闘しながら
猛烈に忙しい日々を過ごしました。
それでも、時々、まるで空気が止まったような
瞬間が訪れることがありました。
社員総勢、4,5人だったでしょうか。
バラバラに進めいていた仕事が
誰かが手を休めたのをきっかけにいっせいに止まる。
そんな時、男ばかりのはずの事務所の中で
なぜか突然、リンスの香りがするのです。
あれ、外部の女性がいつの間にかやって来て
僕の隣にでも座ったのかと思うと…。
先輩の後藤さんが、今では想像できませんが
当時は豊富にあった髪を30cm以上も伸ばし
さらにソバージュにして束ねており、
それをみんなが手を休めた瞬間に解いていたのです。
しかも、髪をすべて前方に持ってゆき
まるで落ち武者のようにしてゆっさゆっさと揺らしながら
コピーを書いてさぞかし蒸れたであろう頭皮に
風を送っているのです。
その結果、閉じ込められていたリンスの香りが
開放され漂ってきたのでした。
とっても気持ちが悪かったけど
当時、しょっちゅうコピーのダメ出しをされていた僕は
そんな後藤さんを見ているとなぜか元気が出たものです。
***
あれからもう10年くらい経ったでしょうか。
今年、僕が新人賞を受賞した時
そんなこんなでお世話になった後藤さんには
早めに知らせておこうと思い電話で伝えたところ、
後藤さんはしばらく黙ってしまいました。
たぶん、たぶんですけど
泣いてたんだと思います。

このコラムを書きながら
そんな人がいて、その他にもまだまだいろんな人がいて
今の僕があるんだと、あらためて気づかされます。

じゃ、明日は、そんなこんなで蓄積された
いろんな体験や思いを煮詰めてカタチにした
新人賞の応募作品の紹介です。

NO
年月日
名前
5719 2024.07.12 吉兼啓介 短くても大丈夫
5718 2024.07.11 吉兼啓介 オールド・シネマ・パラダイス
5717 2024.07.10 吉兼啓介 チーウン・タイシー
5716 2024.07.09 吉兼啓介 吉兼睦子は静かに暮らしたい
5715 2024.07.08 吉兼啓介 いや、キャビンだよ!
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