変な社長シリーズ2「霊感社長」
●十数年前の話ですが、ある町工場の社長から「自伝を書きたい」という依頼がありました。そのころ、僕はまだ20代で、広告の仕事だけでは食えないのでゴーストライターのような仕事なんかもたまにしていたのです。
●以前から知っている社長でしたから、とりあえず話を聞きにいったのです。
●大手メーカーから独立して、小さな工場からスタート。丁寧な仕事と高い技術力が評価されて、今では、一流企業からも発注があるまでになりました。
●そのあたりまでは、ふむふむ、という感じでした。
●ところが、経営には節目があるという話をし始めた頃からちょっと雲行きが怪しくなり始めたのです。
●「小さい頃から、霊感があるんや」とか、「節目が来ると、見えるんやな、いろいろと」とか、「そこに窓をつけたらあかん、という声も聞こえるようになった」とか、「工場のレイアウトも霊と相談して決めたんや」とか。そんなフレーズが増えてきて、僕には理解不能の領域に突入してしまったのです。
●その後も約50年分の霊体験を聞かされました。
●僕はとても怖くなってしまいました。
●さらに、知り合いの霊媒師がいるから、その人にも取材をかけて、客観的な自伝にしてくれと言い始めました。
●お手上げです。
●それでも僕は、最初のあまり霊には関係しないくだりだけは書きました。それ以降については、丁重にお断りしました。
●途中で、仕事を断ることになってしまって申し訳なかったと今でも思っています。にもかかわらずその社長は原稿料もきちんと振り込んでくれました。
●どれだけ金に困っていても、仕事はきちんと選ばなければならない。これは、そのときに得た教訓でした。
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