走撮家
42.195キロを走るとき、何を持ってくの? よくきかれる。
ティッシュ。バンドエイド。タイガーバーム。ウィダー・イン・エネルギー2本。チェルシー。お金。これらをウエストポーチに入れて走る。
ウィダーは20キロを過ぎたところで1本、30キロ通過で残る1本を飲む。
飲み終わったときはほんとうにうれしい。その分身軽になれるから。
お金は5千円札を畳んで入れている。
千円札5枚じゃだめ。重い。1グラムでも軽くなりたいのである。
手に持って走っているものもある。
使い捨てカメラ。
実は私、「走撮家」なんです。
沿道で応援の人が撮るのと、ランナーが走りながら撮るのとでは、
そもそもアングルが違う。ランナーにしか撮れない視点を見つける
楽しみが、90グラムというカメラの重さを許すのである。
はじめは無邪気な「記念撮影家」だった。途中で沿道の人に頼んで
私をパチリ。名所旧跡のそばを走ってパチリ・・・。
ところが「ランナーズ・アイ」に気づいて、構えががらりと変わった。
沿道の人を撮る。足を止めて撮るのではなく、走りながら撮る。
ファインダーを見ないで撮ることもある。目の前を行くランナーを撮る。
画像がブレたり流れたりすることもあるが、それがまた面白い。
過ぎていく時間を撮る。
42.195キロという限られた空間を流れる時間は捕まえやすい。
ランニングショットに夢中になるとフィルムがすぐなくなる。
考えて撮らなければならない。考えているとチャンスは逃げる。
・・・というわけで、1回のレースで、自分で期待しているほど
新鮮なシーンはほとんど切り取れてはいないのが現実だが、
走撮家をやめる気はない。
「吉沢さーん、左腕もっと上げてー」
いま通っている国立競技場のランニング教室で。
ありゃー。やっぱりカメラを持って走っている方の腕は
90グラムに負けるのね。
ってことは左腕が弱いんだ。ってことは、左腕を鍛えればいいわけか。
私、走撮家をやめる気はない。