夕陽と彼女とシーカヤック
なんだか片岡義男の小説の題名みたいだ。
冬の海は、昨日の低気圧のうねりがまだ残っていた。
砂浜に8艇のカヤックが並べられている。
長浜の海岸から出艇する。
インストラクチャーの簡単な説明を受け
打ち寄せる波を乗り越えて一艇ずつ沖へ出て行く。
高校の頃に遊んでいたサーフボードの感覚が、体の奥で蘇った。
シーカヤックは、あのパドリングの感覚に近い。
または、浮き袋につかまりゆらゆらと揺れた、
あの遠い日の感覚。
インストラクターが二人。
あとは、ほとんど初心者だ。
その中で、女性は彼女だけだった。
全員が沖へ向って漕ぎ出す。
一列に並びまるで水鳥の行進のようだ。
しかし、彼女だけは、遅れてしまう。
親鳥が心配するように、
インストラクターは彼女のカヤックに寄り添っている。
午前中の彼女はずっとそんな感じだった。
僕は、パドルの操作にやっとなれてきた。
少しずつカヤックが自分の身体と
ひとつになっていく感覚がある。
大きなうねりの中で、インストラクターは
これからツーリングへ行くが、
ショートとロングの二つから
自分にあった方を選んで参加して欲しいと話した。
彼女は、当然ショートコースを選択するだろうと思った。
僕は、ショートを選ぼうかと迷った。
腕や腰が少しずつ悲鳴をあげはじめてもいた。
しかし、このまま土を踏んでしまうのも寂しかった。
全員が三戸浜までのロングコースを選んだ。
インストラクターが先頭を行く。
かなり速いペースだ。
前を見ると彼女がいた。
僕たち男は、そのペースに離されていく。
ひな鳥が、いきなり親鳥に成長したようだ。
三戸浜からは海に沈む夕陽を斜に受けながら長浜を目指した。
もう僕の身体は、限界に近かった。
ふとよこを見ると彼女がいた。
夕陽を浴びてシルエットになっている。
水面を滑るように進んでいた。
一瞬、微笑んだように見えた。
彼女は、夕陽よりも輝いていた。
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