リレーコラムについて

物真似好き

大石真規子

きっかけは、中学一年の時の地理の先生でした。その先生の話し
方はアナウンサーのように一語一語が明確で、抑揚が心地よく、
したがって授業の内容も大変わかりやすかったのです。中学校の
授業ってのは、小学校のそれとは全然ちがうんだなぁと感動した
私は、家に帰って母に授業の様子を事細かに伝えました。クラス
メートとも、松本先生の授業って、これこれこんな風に説明して
くれるからわかりやすいよねぇ、なんて喋ってました。すると、
その友人が、「うま〜い!松本先生そっくり」というではありま
せんか。さらに、「もっとやって。他の先生はできないの?」と
期待に目をくりくりさせています。昨日も書きましたが、私は、
頼まれると断れないたち。その日から、いろんな先生の物真似を
すべく、ものすごい集中力で授業に望みました。ところが、これ
は予想外に楽しい作業でした。うちの学校には、実に個性豊かで
ユニークな先生が多かったため観察にあきることがありません。
私の物真似レパートリーは着々と広がり、友だちは大変喜んでく
れました。さらに一生懸命授業を聞いたおかげで、成績にも少し
ずつ好影響が見られ、うるさそうに毎日私の話を聞いていた母も
ちょっと喜んでくれました。しかし、世の中そうはうまくいかな
いもので、ある時期から私の成績は下がりはじめました。授業が
難しくなり過ぎたのと、先生のキャラに目が行き過ぎてしまった
からです。物真似はぐんぐんうまくなり、成績はどんどん下がる
というこのパターンは、高校を卒業するまで続きました。(泣)
社会人になってからも私の物真似ブームは終わることがなく、
いまも会社の社長をはじめ、クライアントのお偉い方々、呑み屋
のマスターとレパートリーは増え続けています。それがどうした
とお思いでしょうね。私自身、いつまでこんなことやッてんだか
なぁ・・とあきれることがしばしばなんですから。そんなある日
救世主が現れました。以前ここでとても素敵なコラムをお書きに
なった、武藤雄一さんです。武藤さんの奥様は私の元同僚。その
奥様が武藤さんに私のことを話されたわけですね。大石ったら、
会社で物真似ばかりやってるワ、なんてね。そうしたら武藤さん
がこうお答えになったそうです。それは、コピーライターとして
いいことだと。物真似は相手の特徴を正しく理解しないとうまく
できないから、大石さんはきっとコピーライターに向いているん
だね、と。武藤さん、ありがとう。その言葉に真実味があろうと
なかろうと、私はうれしかったよ。コピーは全然うまくならない
けど、これからも物真似をやめることはできそうにありません。

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