白鳥の湖
僕が主演するテレビ番組が、この6月16日から始まった。テレ
ビ番組といっても東京7局のどれでもない。SKY PerfecTVの
277チャンネルである。僕の友人に、このテレビと契約してい
る人は誰もいない。だから、マイナーもマイナー。もちろん我
が家も契約していないから、家族だって見てくれない。こりゃ
あ、どんなに醜態を演じても気がラクだ。そのかわり「よかっ
たヨ、面白かったヨ」といって電話をくれる当てもないから、
寂しいと言えば寂しいか。
この番組、題名を「ニッポンの旅・地ビール紀行」という。日
本各地にできた地ビールの醸造所とレストランを訪ね、そこの
ビールの味をレポートするという趣向である。僕の役割は、コ
ピーライターとしてではなく、ビアテイスターとして地ビール
を飲み料理を食べてあれこれウンチクを語る。そう、コメンテ
ーターだ。
ところが、実際にやってみて分かったことだが、これはコピー
ライターでないと難しい仕事である。この手の番組は、僕が感
じたままを正直にカメラの前で話すのを好まない。ホメてホメ
てホメマクルことで成り立つ番組であるから、ホメ言葉のボキ
ャブラリーをいくつも用意しておかないとつとまらない。
どんなによくできた商品でも欠点はある。ビールも例外ではな
い。欠点に目をつぶり、いいところを見つけだして、魅力的に
語ってみせなきゃならないとしたら、これはもうコピーライタ
ーの独壇場である。僕は今、ろくにコピーを書いていないが、
コピーライターでいて本当に助かったと思っている。
それはまあ、ともかくとして、先日テレビ局のディレクターと
次回放送分の打ち合わせを持った。どこの地ビールを訪問する
かについては、だいたいのところ僕が決めていいことになって
いる。そこで、新潟県にある「スワンレイク・ビール」という
ところを候補に挙げた。スワンレイクといえば、チャイコフス
キーの名曲「白鳥の湖」を思い浮かべる。
ビールと「白鳥の湖」。これは面白いテーマになりそうだ。
僕はこのところ、ビールの世界にどっぷりと浸かっていて、ビ
アテイスターとして味の評論を書いたり、ビアデザイナーとし
て醸造のためのレシピを書いたりしている。そのビアデザイナ
ーの立場で言うと、音楽はレシピを書くときにさまざまなイメ
ージを触発してくれる宝庫である。たとえば、イントロのピア
ノ音をホップの香りに置き換えて、ビールのひと口目を華麗な
ホップ香で響かせる。続いて聞こえるヴァイオリンのやさしい
旋律から、舌先に心地よい甘味を残そうか…と。シンバルとド
ラムの連打から、ビールを飲み込んだときに喉越しをドンドン
打つような強い苦味を効かせてみるか、といった具合に。
僕の番組が訪れようとしている「スワンレイク」のビールが、
はたしてチャイコフスキーの「白鳥の湖」をイメージして造ら
れているかどうかは、分からない。分からないから、行って確
かめたい。もしもそうであったら、あの♪ターン、タタタタタ
ーン♪という出だしのメロディーは、どんな香り、どんな味に
置き換えられているのだろうか。興味深々である。
ロケの予定は、7月3日。ああ、待ち遠しいなァ。
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