リレーコラムについて

虫歯のコピーライター

松下武史

僕の歯は、上下の前歯数本を残して、あとはぜんぶ虫歯です。
治したのもありますが、いまでも時おり、気まぐれに痛む歯もあります。
いちばんひどいのは、右の下奥歯。2年ほど前、痛みをごまかしながら、ずっと放っておいたところ、とうとう歯根まで腐ってしまったらしく、ごっそりと抜かれてしまいました。

潔癖症の人が聞いたら「ゲゲッ」と思われるかも知れませんが、実は、僕、歯を磨くのが嫌いです。とはいえ、まったく磨かないわけではありませんよ。歯のすき間に何かがつまって気持ち悪いときとか、妙に口の中がヤニっぽかったりするときとか、自分でも酒臭いなぁと感じたときとか、そういうときには歯ブラシを持ちます。
でも、毎朝毎晩、決まったように歯を磨く。その義務感のようなものが、どうも性分に合わないところがあるんです。

今朝も、歯を磨かずに家を出ました。出張の待ち合わせにギリギリだったこともあるのですが…。列車に乗って、しばらくしてから、やっぱり口の中に違和感が残っていたため、出張カバンから洗面セットを取り出して、車内の洗面所で歯を磨きました。
席に戻ると、隣でマンガ雑誌を読んでいたプロデューサーが「トイレ、混んでました?」。僕は思わず「え?ええ、まぁ」と返答してたりして。

こんなことだから、きょうのプレゼンテーションは、歯切れが悪かったのかなぁ。いつもなら、相手先の(ときには意地悪な)質問にも、臨機応変に切り返せるはずなのに。ほんと、きょうは、ダメでした。

思い出すと、クライアントである、ベンチャー系企業の社長は、日焼けした顔と見事に対照的な、きらめくばかりの白い歯を見せつけんばかりの話し方でした。
もしかして、アメリカ人が理想とするような、歯並びのいい真っ白い歯だったら、もっともっと、自分の発言に自信を持って話ができるのか。なんて、普段は考えもしないことまで気になったりして。

美しい歯を維持するのために、決まって歯を磨かなければいけないという義務感とか、きちんと予約を守らなければいけない歯医者の強制感とか、そういうのが、あんまり得意じゃないからフリーになったところはあるのですが。

あした、もういちど、クライアントの社長と会う機会があります。
よーし、今夜は気がすむまで、思いっきり、歯磨きでもしてやるか。

出張先、ホテルのシングルルームにて。

では。また、あす。

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