リレーコラムについて

上新庄の青春・地獄篇

清水清春

(すみません。お盆やすみなので、一気に書かせていただきます)

「詩吟」というと「年寄り臭い」とよく思われがちですが、
「学生吟」というのはちょっと違います。一人で吟じる「独
吟」に加えて、部員全員、あるいは回生別に吟じる「合吟」
があり、「歌う」のではなく、むしろ「咆哮」に近い。先輩
たちの合吟を聴いた時は、その迫力に腹の底から鳥肌が立つ
ような感動がありました。
大阪経済大学吟詠部は、「芸術会」に属していますが、実際
はほぼ体育会系。もともとは応援団の演舞としてやっていた
ものが分裂・独立して生まれました。だから学生服姿で、挨
拶も「智押忍」といいます。

さて、僕を含めて8人の新人が入ってスタートした吟詠部生
活。週に3〜4回、2時間ほどの練習をこなす他は、毎日の
ように先輩にくっついて昼メシやお酒をごちそうになってま
した。(なんてやさしい先輩方なんやろ・・・)でも、そん
な幸せも長くは続きませんでした。

夏合宿。

「よう聞け1回生!お前らのお客さん扱いももう終りじゃ」
能登半島の民宿に着くや否や広間に集合させられた僕たちに
あの福島さんが一発気合を入れました。
その顔はもはや食いだおれ人形どころか、かに道楽のごとく
真っ赤。
午前中は広間で3時間、先輩からの稽古づけ。ずっと正座で
す。少しでも、もぞもぞ動くと「動くなっ!」と湯呑茶碗が
飛んできます。それでも動く奴は、背中に木刀を差し込まれ
縛られます(Mの気はないんやけど)。がまんしていると、
痺れは足から手まで上がってきます。あぶら汗に涙と鼻水が
混ざって、もうぐちゃぐちゃの顔です。
「終了!」主将の声が響くと休む間もなく昼食の準備です。
「はよせんかい!」と怒号が飛びますが、痺れすぎて立てま
せん。這いつくばって用意して、先輩方の給仕。
午後は回生別練習。堤防の向こうとこっち、300mくらい
離れたところで吟じて、先輩に聞こえなければ帰ってこれま
せん。声は1日でつぶれました。
本当にきついのは夜練習。ランニングに始まり腕立て、腹筋
と、マジで体育会です。特に腹筋は、腹式呼吸ができないと
詩吟の声が出ないので、かなりきつい。部員全員が輪になっ
てお尻をつき、足と上半身を20センチほど上げた状態で、
一人一吟、約2分を15人連続で一周。間違えたり足を下ろ
すと始めからやり直し。「おりゃあ!」と掛け声をかけるの
ですが、しまいには「こらあ!」とか、もう喧嘩です。

最終日の朝練習。いつもは全員なのになぜか1・2回生しか
いない。鬼の福島さんもいない。しかもやたらと長いコース
をランニング。朝食の時間まであと1分しかない。(最後ま
でしごきか!)と思いつつ必死で宿に帰って準備にかかろう
としたら、すでに用意が。
「この朝食はお前らが幹部。わしらが1回生じゃ」と、先輩
が給仕してくれたのです。厳しさの中の嬉しいいたずらに、
思わず感激。座布団の敷いたいい席にあぐらをかいて、僕は
涙ぐみながら言いました。
「こらあ福島ぁ!お茶や!」
(つづく)

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