リレーコラムについて

下り坂1

山本高史

アブ、があたまにつくダイエット機器を4つ持っている。
腹筋するやつ、ぶるんぶるん振る細長い板、ローラーがついて床をごろごろするやつ、そして電気でビリビリするやつである。全部粗大ゴミになってたのだが、さいきんふと思い立ってビリビリをやっている。あれはアブないなんて報道もあったが、知ったこっちゃない。腹を凹めないと、ズボンが入らないのだ。
ぼくは徐々に、丸顔化している。以前はそうじゃなかった。
大学時代合気道をやっていて、身長はいまとそう変わらなかったが、細く引き締まりそりゃあもう麗しいからだをしていた(ような気がする)バンドもやっていて、当然太ってたらロックはできない。会社に入ってからも、キックボクシングに夢中で、ああいう時なんか、女のコよりさきに素っ裸になったもんさ。ところがどうだ。
メリディアというのは、アメリカの保険衛生局が認可した食欲抑制剤だ。ぜニカルも同じく油分の吸収を阻害するくすり。両者とも通販で買える。ナオミが使って有名になった下剤、貼るだけでやせるダイエットパッチ、セルライトとかいうよくわからんものをとるくすり、宿便がビックリするほど出るってやつ、はいはいぜーんぶ試しました。キトサンとかギムネマとか太るくらい摂取いたしました。
人間は、ともすれば低きに流れる。くすりで何とかしなければならないのは、ぜい肉ではなくぼくの性格なんだろう。運動しなきゃムリさ。ちょっとさいきん飲み過ぎじゃないか。特上カルビを、並ロースにしろよ。わかってるさ、うるせーな。
ふと思う。理想に燃える若いころは、美しく生きたいと思っていた。やがて純粋という視野の狭さは、寛容というボケにとってかわられ、その寛容の恩恵を最大に受けた我が身は、醜く衰えていく。もちろんイヤだ。手をこまねいて見ているつもりはもちろんない。だから現に抵抗している。でもな待てよ。どんなに抗おうと、年をとると衰えていくのは、生命の真実じゃないか(ちょっとおおげさ)ボケなきゃ対峙できない現実もゴロゴロある。
うちのばーちゃんがボケていくのは、家族みんなに手間をとらせて、いなくなった時あまり泣かせないようにしようとしているのだ、と思ったことがあった。赤ん坊から大人になって、また赤ん坊程度の生命にもどるのかなとも思った。おそかれはやかれ、ぼくもその流れの中にいる。ならば下り坂を上手におりて行こう。たしかに、おのれを認めず、がむしゃらな若作りに励むほど見苦しいものはない(はやりのイントネーションとかね)
というわけで、当コラムでこれから5日間、ぼくがいま直面している衰えについて、下り坂を全速力で疾走なさっている諸先輩のてまえ面映いのですが、書かせていただきます。以前S社のコピーで、きれいに枯れる花になりましょう、というのを書いたことがあります。当時は女性にむけて書いたのですが、自分に送り返されてくるとは思いませんでした。

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