しゃべるな、聞け。
中道康彰
きのうは急な東京出張が入ってしまって、
最終の新幹線で大阪に帰ってきました。
会社に「行こか」家に「戻ろか」と迷った挙句・・・。
すいません。書けませんでした。
というわけで、今日は金曜日。
最終回はトラブルについて書いてみたいと思います。
どんな仕事にもトラブルはつきものですから、
当然ながら、コピーライターもいろんなトラブルに巻き込まれたり、
あるいは自ら引き起こしたりします。
僕も相当ありましたし、これからもあると思います。
どちらかと言うと僕は、トラブル、とりわけクレームに弱いほうでした。
でした、と過去形だということは、つまり、少しは強くなったということです。
強くなった理由のひとつは、慣れたということ。
いわゆる場数というやつです。
人間、いつも怒られていると、心臓が強化されてきますから。
そして、もうひとつの理由は、ノウハウが身についたということです。
これがじつに大きかった。
昔、ベテランの営業マンと飲みにいったときに、
こんな話を聞いたんです。
「ところでMさんのお客さんって、ことごとくヘンなとこばっかりですよね」
「そやね。みんながそう言うとるね」
「なんでMさんのところにばっかり集まってるんですか」
「たぶん、ワシが呼んでしまうんやろね。そんな客を。もともと悪霊にとりつかれやすい体質のヤツっておるやろ」
「え?それって、体質的なもんなんですか」
「おそらく間違いない」
「そうですか・・・。悲劇ですねえ。その体質、どうにかならんのですか」
「ならんやろね。ワシの親父もそうやから」
「い、い、遺伝するんですか!」
「というより、霊的なもんやろ」
「えーっ。それまた不幸なもんですねぇ」
「いいや。そうでもないよ」
「なんでですのん」
「ワシが悪いモンを引き付けとるおかげで、みんなのとこにはええ客がいく」
「それはそうですね。一気に引き付けてはりますからね」
「そう。ワシは人の役に立っとるわけや。幸せなこっちゃで」
「なるほど。器がでかいですねぇ。僕にはできませんわ。それに、そもそも僕、クレーム処理へたくそなんですよ」
「そうかぁ」
「かなりヘタですよ。クレーム処理に行ったのに、それが原因でさらにクレームになったりしますからね。もう行きとうないですわ」
「ふーん。それはまた特異体質やね」
「そんなん体質やないですよ。なんかええ方法ないですかね。教えてくださいよ」
「まぁ、ないことはないで。明日から即、実践可能なやつもあるで」
「えっ!それ教えてください!!」
「まぁ、ひとことで言うとやな、しゃべらんこっちゃ。一切、黙っとけ」
「はぁ?」
「お前、しゃべるやろ。ひょっとしたら、客以上に口数が多い可能性がある」
「そうですね。何とかしよう思て、しゃべりまくりますけど」
「それがっ、あかんねや。客はお前の言い訳なんか聞きとうない」
「ほんでも<どないしてくれんねん!>て、お客さんえらい剣幕で言わはりますよ」
「そこですぐにお前は<ほな、これはこうですからこないさしてもらいます>言うんやろ」
「もちろんですよ。どないしてくれんねん言われてんのに、無視したら大変なことになりますよ」
「違う。やっぱり分かってないな、お前。黙るんや。うなだれるんや。黙っとったら、限りなく客がしゃべり続けよる」
「そんなことしたら止まらんようになりますやん」
「甘い。そもそも客は怒りたいからお前を呼んどるんや。ええか。それは、客のニーズなわけや。それをどこまで満たせるかが勝負やろ。顧客第一主義ゆうたら、そういうこっちゃで。お前の場合は、客以上にしゃべっとる。言い訳しくさって。そら、客は欲求不満になるわな」
「な、なるほど・・・」
「ようは、どこまで怒らせることができるかや。そう思とったら、客が怒り出したとき、よおし、俺はいまニーズを満たしてるでぇ、と前向きな気持ちになれるやろ」
「へぇ、すごいですねぇ。でも、それで解決するんですか」
「するね。どんなすごい人間でも怒り続けることは不可能なんや。人間の感情は変化する。
時間とともにな。あせったらアカンのや」
「変化を待つわけですね」
「浅い。自然の法則に従うんや。自分が何とかしてみせるゆうのは間違いなんや。変化を待つんやない。変化を観察するんや。そうやってはじめて、解決策の提示ができる」
「ははぁ。さすがですねぇ。僕には真似できそうにないですわ」
「そんなことあるかい。四の五の言うてんと、黙っとったらええんや。しゃべるより簡単やないか」
「そんなもんですかねぇ」
「そう。まったくもってその通り」
何となくわかるような気がしませんか?
これをその後、僕は折に触れ実践してきましたが、
明らかに効果がありました。
ただし、ノウハウというよりは、スタンスの問題かもしれませんが。
みなさんもぜひ一度、お試しいただきたいと思います。
いや、その前に、クレームなんかとは一切無縁な、
立派なコピーライターを目指すべきなんでしょうけれど・・・
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さて、1回抜けてしまいましたが、
とにもかくにも、僕のリレーコラムはこれにて終了です。
名雪さん、ご指名ありがとうございました。
あと、掲示板に感想をいただいた方、ありがとうございました。
すごくうれしかったです。
次週は、今年、みごと新人賞を獲られました、
トウキョウ・グレート・ビジュアルの西井さんにお願いしました。
ちなみに西井さんの受賞作のキャッチは、
その実験は、死ぬまで続く。
です。
情緒に刺さるいいコピーですよね、ほんとうに。
それではみなさん、また会う日まで。
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