81ライダー
(SE:森の中、遠くから聞こえる尺八の音色)
早朝、河原の森の中に響き渡る尺八の音
一体、誰がこんなところで尺八を吹いているのだろう?
まあ、時々、ここにはサックスやドラムを叩く人などがやって来る
思いっきり楽器をやりたい人にはいい練習場でもある
しばらくすると尺八の音が止み、代わりにバイクのエンジン音が
練習してる私達の所に近づいてきた
そのライダーは、最新のホンダのレーサーにまたがり、
上下、ド派手なトライアルウエアに身を包み
そしてニコニコしながらこう言ってきた
「オレもこのセクションで遊ばせてくれよ」
ヘルメットでよくわからなかったけど、近づくとかなりの老人だった
歳を聞いたら81だという
ハイエースにこのバイクを積んで60キロ近い道を走ってきたという
車にバイクを積み下ろしするのはテクニックもいるが
なにより足腰の力が必要だ
それをこの81歳の老人が普通にやっていることが驚きだった、
そして、その走りはゆっくりで派手さこそないものの
段差や曲がりかど、地面を味わうように走っていく
そしてゴールする時には、まるで子供のように
「お〜、クリーンだ〜!やった〜」と雄叫びを上げる
(クリーンとは一度も足を付かずにゴールすること)
81歳の老人が周りが驚くような大声を出して喜ぶ姿が印象的で
自分も、もしかしたらこの歳までバイクで遊べるのか?という
希望の光のような存在だった
だったというのは、パタリと見かけなくなってしまった
もしかかしたらと思っていたけど
風のうわさで、ボーリングの最中に転倒して骨折したという
うむ〜、年取ってからの骨折はな・・・
そして、やっぱりアレ以来、尺八の音は森に響かなくなった。