リレーコラムについて

「戦車」の話。

小霜和也

子供の頃、戦車が好きでした。

大人になったら三菱重工か富士重工に入って設計者になろうとまじめに考えてました。
飛行機とか戦艦とか想像上のロボットでなく、なにゆえ戦車が好きだったのか振り返ってみると、たぶん戦車というものが宿命的に持つ「矛盾」に惹かれていたように感じます。

戦車は3つの要素で成り立っています。
攻撃力・防御力・機動力。
強力な主砲を備え、分厚い装甲で覆われ、すばやく走れる戦車が最もすぐれた戦車です。
しかし、この3つは互いに脚を引っ張り合います。
デカい大砲を備えるために車体を大きくすると敵の弾が当たりやすくなり、装甲を厚くすると車重が重くなりノロマになります。

戦車の歴史はなんといっても第二次大戦中がいちばんおもしろいのですが、当時最もすぐれた戦車を生み出したのは一般にイメージされているドイツ人ではなくロシア人でした。
彼らは戦車の装甲を強化するために、鉄板を厚くするのでなく「斜めにする」というウルトラCを考えついたのです。
独軍のロシア戦での敗退は、この発明で作られたT34という戦車が大きな役割を果たしたと言われています。
大戦後期になると、ドイツ人は逆に戦車を割り切って作り始めます。
ノロマでいいと。
攻める戦いから、守る戦いへと状況が変化しているのだから、すばやく動く必要はない。
そのかわりどんな弾もはね返し、どんな敵も粉砕する、そういうのが必要だと。
その発想で生まれたのがタイガー戦車というものです。
現在の西側諸国の戦車はこれまた全然違う発想から生まれています。
主砲はデカく、装甲は厚く、しかも走るスピードは速いですが、重い車体を走らせるエンジンは、燃費なんとリッター300メートルほどです。
矛盾をお金で解決しているわけで、これは旧東側諸国にはできないやり方と思われます。

やや大げさですが、僕は子供の頃戦車好きでラッキーだったと感じています。
矛盾をどう克服するか、こそが競争の醍醐味であると自然に身体に入ってきた気がするからです。
いまの子供たちの触れる世界に問題を感じるのは、そこに矛盾がみえにくいことです。
たとえばRPGでは、モンスターをやっつけてレベルを上げれば必ずゴールにたどり着けます。
自分のやったことに必ず見返りがある、と教えられて育つわけですね。
関係があるかわかりませんが、僕の印象では最近の20代前半の人たちは矛盾にぶつかると逆上する人が多いようです。

広告表現も本質的な矛盾をはらんでいるのは業界の全ての人が感じていることでしょう。
おもしろいCMほど、商品よりも表現がでしゃばってしまうために商品自身を衰退させてしまう傾向があります。
ヒットCMをつくろうと思って無理をすると、いろんなクライアントを転々とすることになります。
僕はジプシーのような仕事の仕方はいやだし、かといって
「小霜は売るんだけどつまんないよね」
と言われるのもいや。
クライアントから無理を言われると、解決するためにまずウルトラCはないか考えます。
割り切ったらダメなのか、表現で勝負しないというのはどうかなど、切り抜け方をさがします。
うまく解決できた、と思ったとき快感が駆け抜けます。
僕の作る戦車はまだまだ豆鉄砲しか積んでませんが、それでもなにかの役には立っているようです。

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