リレーコラムについて

できない話。

小霜和也

僕はクリエイティブの仕事が苦手です。
そんなことを言うと、アシスタントは
「嫌味に聞こえますよ。」
などと忠告してくれるのですが、正直にそう感じます。

学生の頃、コピーライターになろうなどとは夢にも思っていませんでした。。
そもそもクリエイティブになんの興味もなく、自分にそんな仕事ができるなどと想像したこともありませんでした。
会社に「やれ」と命じられたときゃあ、
「君はこれから天井でネズミ捕まえるのが仕事だから。」
と言われた飼い犬のような、居心地悪い気分におちいったものです。
しかし会社で生きていく以上は、できない仕事であっても解答を出していかなければなりません。
「へえ」と思われるようなコピーを書かないと。
僕はやり方をいろいろ考えて、「パクるしかない」という結論に達しました。
もちろんパクるといっても、誰かの書いたコピーをそのまま持ってこようと考えるほどあほではありません。
なにか、いいかんじの会話とか、キュンと来る言葉とか、そういうのをどこかからうまく見つけてきてコピーに仕立て上げたらどうだろう。
僕は毎週土日にフランス映画の3本立てをハシゴして、気になったセリフをメモしていきました。
銀色夏生とかの詩集を大量に買ってきて新鮮なレトリックを捜したり。
あるいは、大御所コピーライターが書いたボディコピーを紙に写して、リズムを身につけようとしたり。
コピー年鑑は掲載されているキャッチフレーズを全部ワープロにインプットしました。どういうふうに使うかというと、仕事する時にただ眺めるだけ。当時から、言葉にはどうやら「位」のようなものがあると感じていました。コピー年鑑には広告ワードの最高位が集まってるわけだから、たとえば日産のコピーを考えている時に見ているのがサントリーのキャッチフレーズだとしても、内容はちがえど自分の書いたものがその「位」まで到達しているかどうかはわかるのです。
そんなことをやっているうちに、いつのまにか仕事としてお金をとれるようになっていました。

話は飛びますが、つい数日前の1月30日、僕が企画・シナリオをやった「Operator’s Side」というゲームがSCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)から発売されました。
苦労した甲斐があって評判が良く、ファミ通のレビューではプラチナ殿堂入りを果たし、レビュアー全員がイチオシにしてくれ、ディレクターと喜び合いました。
予想以上に売れていて、いま、店頭在庫はほとんどない状況です。
3年前、SCEのディレクターから
「シナリオ書いてみませんか。ゲームライターに書けないようなものが、ほしいんです。」
と誘いを受けた時は、そんなん無理だろうと思いました。
けど、やってみたい!という欲求も強く、とりあえず引き受けよう!まあおれは昔から要領いいからなんとかなるだろ。コピーだってなんとかなったもんな。
ということで、僕はまず、ハリウッドのシナリオ研究をしました。シナリオアナリストの本を熟読し、セオリーを覚えました。
良いことと悪いことは交互に起こすべし、時限を設けるべし、etc…
それから世界設定の近い映画や小説を大量に買ってきてまたしてもパクりまくりました^^;
「お楽しみはこれからだ」を全部買って名セリフをチェックしていったり。
でも、結果的に仕上がったものは他の誰でもない、僕だけのオリジナルになってました。
思い起こすと、初めて作詞をやったときもそんな感じでした。
「できないけど、やりたい。やるしかない。やるためにはどうしたらいいか?」
僕は常に自分が「できない」と思っているので、なんとかできてるのかな、と感じています。

事務所に入ってくるコピーライター志望の若い人などは僕とスタンスがまるきり逆だったりします。
「自分はできると思うので、コピーライターやりたい。」
と言って、入ってきます。
頭の中にあるものを紙に書いて、
「つまらん。」
と言われると、
「自分はできないと思うので、コピーライターやめます。」
と言って、去って行きます。

さて、来週のバトンタッチです。
ここのところ博報堂系(?)の人が続いているようなのでどうかとは思ったのですけど、元部下の佐々木圭一がどうしても書いてみたいそうなので、しょうがない、書かせてやってもいいですか?いいそうだ。よかったな佐々木。

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