ミッションディレクター
高松聡
クリエーティブに転局しようと決意するのは勝手だけど、はいそうですかと異動させてくれる会社じゃありません。というかほとんど不可能な感じでした。当時僕は某クライアント担当営業の最年長社員。営業部長に相談しても、局長に相談しても「交換要員が見つからないと放出できない」の一点張りです。そうこうしているうちに1年2年と流れてしまいました。ふと気づいてみるとクリエーティブ局に転局する唯一の社内制度「クリエーティブ登用試験」の受験資格を失ってしまったんです。年齢制限を越えてしまったんですね。これ以上歳くってるとクリエーティブで再出発なんて無理だよ、と会社が決めつけている年齢が35歳らしいんです。途中転局組は成功している人が多いよねとよく言われるけど、佐々木宏さん、佐藤雅彦さん、岡康道さん、多田琢さんといった人たちは30前くらいに移ってるんですね。
こうなると、既成事実の積み重ねしかないと思ったんです。勝手にコピー書いて、CM作って、営業に置いとくと違和感のある人になってしまえと。とはいえ、担当クライアントのコピーをちょこちょこ書いたりしてるだけじゃ「クリもちょっとできるんだぜ営業」程度にしか見られません。かといって営業の僕にコピーを発注してくる他局の営業なんかいるわけありません。なにか突破口が必要です。
運命の朝は突然やってきます。自宅で朝日新聞をパラパラめくっていると神のお告げがあったのです。小さな記事でしたが僕の身体に電気が走りました。「国際宇宙ステーションの民間利用アイデア公募」という見出しです。ほんまかいなと記事を読むとどうやらホントらしい。すぐに宇宙開発事業団に電話しました。すると締切は2日後だというじゃないですか。締切日の翌朝出社したときにポストに入っていればいいんですね、と確認して電話をきりました。これです、これこそ千載一遇のチャンスです。「宇宙ロケを提案できる唯一のCMプランナー」になれば、僕が第19営業局の社員であっても僕に発注してくれる営業がいるに違いない。電通の営業って初物好きが多いしね。よーし、国の公募に個人名で(電通じゃなくて)応募して宇宙ステーション利用権を我が手に、と妄想は膨らみます。夜自宅に帰ってから一睡もせずに企画書を書きまくりました。締切日の翌朝7時に事業団のポストに投函。タイトルは「国際宇宙ステーション映像を活用したCM制作実験・実施プロジェクト」です。国の協力で実施するものだから、あくまで実験・研究じゃなきゃだめなんです。ということは宇宙ロケのフィージビリティを確認するだけでオンエアできないじゃないかとなるわけですが、いい理屈を考えました。「制作されたCMを実際にオンエアすることにより、一般国民の宇宙への興味関心度の変化が起きるかどうか実験する」という提案です。とにかく「一般国民の興味関心」て言葉がお役所では通りがいいんです。
待つこと2週間、なんと僕の企画が1次審査を通過してしまいました。最終選考は学識経験者の先生方に直接プレゼンです。入念に準備して生涯最高のプレゼンができました。その後開かれた国の宇宙開発委員会で正式承認。晴れて世界初の本格的宇宙CM撮影プロジェクトの始動です。
第19営業局主管という本来の名刺に替わり、電通宇宙プロジェクト・ミッションディレクターという名刺を作ることから僕の仕事は始まりました。
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