ダッチワイフ
高松聡
ポカリの缶を宇宙までもっていくのがこんなに大変だとは、、。
分かっているつもりだったけど、想像を超えてました。僕はCMを作らせてもらうため、コピーを書かせてもらうために、このプロジェクト始めたんですよ。でもそこに至るまでがホント長い。でもね、コピーを書くことより障害をひとつひとつ乗り越えていくことが楽しくなってきたんですよ。
宇宙CMを実現するには大きくわけて、8つのステップがありました。1.ロシアと契約を結ぶ。お金の話とかですね。2.ポカリを宇宙に持っていってもらうことをロシア宇宙庁に承認してもらう。安全性の検証とかですね。3.撮影プランをシュミレーションする。地上のシュミレーターにカメラ持ち込んでアングル決めとかやるわけです。4.撮影マニュアルを作る。英語とロシア語で100ページ以上!5.宇宙飛行士を訓練する。カメラマン役には撮影技術を、被写体役には演技を訓練するわけです。6.打ち上げをカザフスタンで撮影。7.宇宙ステーション内での撮影映像を無線で地上に落とす。それをモスクワ管制センターでモニターしながら演出指示を返す。8.撮影したテープを地上に帰還したカプセルから回収。やれやれです。
安全性試験を誰がやるかっていったら電通がやるわけです。ポカリ缶を70度の高温で72時間密封した箱で放置すると、缶の青いインクからどんなガスが出てくるかガスクロマトグラフィで分析せよ。こんな要求がロシアからポンポン届く。あるいは、青いインクの全ての原材料と化学組成を出せと要求される。クライアントさんに聞いても缶メーカーに聞いてくれ、と当然言われます。缶メーカーに聞くと印刷会社に聞いてくれ。印刷会社に聞くとインク会社に聞いてくれ。インク会社に聞くと「そんな環境熱帯でもありえないでしょ」と冷たい答えです。「あの、宇宙に持っていきたいんで、、」と返すと本気にしてくれません。そうなんです、このプロジェクトはいろんなとこに相談するたびに眉唾扱いされたんですね。でも、一端信じてもらうとみんな目を輝かせて協力してくれました。みんな宇宙に憧れてるんだなあと嬉しくなしました。
ロシアという国は不思議な国です。米ソ冷戦時代の宇宙開発競争の遺産をなんとか維持するのに精一杯なんですね。アポロ時代と変わらないロケットをいまでも打ち上げ続けている。老朽化が激しくて、壁はぼろぼろ、部屋の電気がチカチカ、あちこち錆だらけ。宇宙関連の重要施設だって品川の町工場よりおんぼろです。だけど、ちゃんと宇宙に人を送り届けられるのですから不思議です。ハイテク大国日本なんか無人ロケットの打ち上げすら失敗が多いわけですから。そんなロシアでの僕たちの制作作業はロシア流ローテク作業でした。
宇宙ステーションの地上モックアップで無重力シュミレーション撮影、というと聞こえはいいですよ。でも無重力風に撮影リハするために僕たちがやったことは、ポカリの缶をテグスで吊って棒きれで浮かせながら移動とか、宇宙飛行士が浮いてるイメージをテストするためにダッチワイフにユニフォーム着せてテグスで吊ったりとかなんです。等身大の空気で膨らませられる軽い人形を捜してロシアに持ってきてね、と制作さんにお願いしたらダッチワイフしか思いつかなかったらしいんんです。ロシアの軍事基地の中にある宇宙ステーション訓練センターでダッチワイフを膨らませる東洋人達、それをにやにやしながら見守るロシア人。シュールですねー。
とにかくそんな素人&ローテク作業の積み重ねで、ポカリの打ち上げまでなんとか漕ぎ着けました。
でもまだ、コピーを書けないよー。
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