イチローにケチをつけられる?
石川透
新会社に引越した最初の一週間、毎日朝10時前に出社した。
こんなにパンクチュアルなのは新入社員時代以来かもしれない。
アシスタントの森永さんよりも早く着いた日は、
オフィスの窓をひとつひとつ開けて回る。
ちょっとした朝の儀式。
それから、奥の会議室へと向かう。
目当ては、プラズマテレビだ。
スイッチを入れる。
正面の席に、ひとり、深く座る。
MLBを、松井を、イチローを、見るのだ。
ひとくち、コーヒーをすする。
一日で最も贅沢な時間だ。
NHKのMLB中継の解説者は、
荒木、小早川、小宮山、武田、高橋(直)、富沢さん(元審判)と、
なかなかシブイところが揃っている。
が、中でも、本西がいい。
そう、かつてブルーウェイブで活躍した守備の名手だ。
たとえば、こんなシーン。
ライト後方に深い飛球が上がる。
イチローがゆっくり背走しながらフェンス際で好捕する。
さすがイチロー、余裕をもったプレーだな。
と、僕などは思ってしまうのだが、本西はちがう。
「あれじゃダメですよ。もっと早く落下地点に入ってから捕ってあげなきゃ、
ピッチャーが冷や冷やする」とピシャリ。
プロだな、と僕は思う。
みんながほめているものを、ほめるのは簡単だ。
みんながいいと言っていても、よくないと思ったらよくないと言う。
日本は、ときどき、そう言えないような空気になる。
それが僕は好きじゃない。
誰かがいいと言うと、いっせいにそちらに流れる。
コワイ。コワイ。
もとい。言い過ぎた。
したいのは、単に野球の話だ。
もし本西の解説を聞いたら、イチローのプレーがまた変わるだろう。
より高い次元へ。より完璧に近いプレーへ。
それがいい。そうなるのがいい。
もっと速く、もっとスリリングで、もっと美しいプレー。
見たいのは、それなのだから。
松井が外角の球を器用に三遊間へ流し打った。
さて、僕は何と言おう?
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