リレーコラムについて

あかいクルマ

石川透

ついこのあいだ、12年乗ったクルマを買い換えた。
赤のステーションワゴン。
気に入っていたし、他に「これ」というクルマに出会わなかったので
乗り続けていたのだが、諸事情で手放すことになった。

それだけ長く乗っていると、さすがに愛着がある。
こいつが僕ら家族を乗せて連れて行ってくれた
いくつもの旅のシーンが走馬灯のようによみがえり・・・
ではないとしても、思うところは深かった。
ただ、そうやってあまり「モノにはココロが宿る」を思い込みすぎるのもどうかなと思い、
できるだけドライに考えようと思っていた。

ところが、意外な障壁があらわれた。
3歳の息子である。
男の子はだいたい電車派かクルマ派に分かれるといわれるが、
うちの息子の場合は圧倒的にクルマ派。
あっという間に家中にふえていったミニカーの数は知れない。
当然、いつも乗っているクルマも、
「あかいブーブー」と、ほぼ最初におぼえたことばで呼んでいた頃からのお気に入りだ。

その息子に、こんどこのクルマとはバイバイして新しいのに乗るんだ、という話をすると、
ものすごく悲しそうな顔になった。
そして、「さみしーねー、ずっとのりたかっただのにねー」と言う。

これには参った。
こっちがせっかくドライになろうとしているのに、
子どもながらのそんな姿を見せられると、妙に弱い。

このクルマはもうずーっとがんばってきたから、
そろそろ交代しなくちゃいけないんだよ、と言って聞かせるのだが通じない。
逆に、「そうだ、あかいクルマをあたらしいクルマのうえにのせればいいじゃん!」
などと小さなあたまで必死に考えてきたりする。そういうのに、弱い。
友だちや祖父母にも、「こんどあかいクルマ、バイバイになっちゃうんだよー」
と眉を八の字にして訴えていたりもした。

その後、できるだけその話にふれないようにして、納車の日を迎えた。
泣かれたりしたらどうしようと思っていた。

ところが、いよいよ受け渡しのとき、息子はクルマに駆け寄っていき、
車体にさいきんおぼえたキスをして、「バイバーイ」と手を振ったのだ。

びっくりした。
とともに、自分の中に残っていたある気持ちがすうっと溶けていく感じがした。

いま、息子は新しいクルマに乗るのが大好きだ。

子どもに教えられることは多いと言う。
ほんとだ。

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ということで、コラムも終わりとなると惜しい気もあるが(ホント?)
そろそろバトンタッチ。
身内で恐縮だが、ビルド期待の若手、山田慶太くんにリレーするとしよう。
今年TCC新人賞をとったばかりのその勢いで、たのむ。

ここまで読んでいただいた方、ありがとうございました。

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