リレーコラムについて

シリアル墓参

林裕

お盆休みも終わって、人が都心に戻ってきましたね。みんな偉いよなあ、
きちんと里帰りしたり、墓参りしたり。僕も忙しくはないんだけど、
中途半端に打ち合わせが入ってて、結局休みは取れませんでした。
随分長いこと墓参りにも行っていない気がするなあ・・・。

さて、墓参りと言えば、僕の中でひときわ強烈な印象が残っている事件が
ある。いい想い出なのかどうかはわからないのだけど。

ある日友人から、「とてもよく当たる占い師がいる」という話を聞いた。
なんでも、芸能人も沢山来るバーで、そこの女主人が、気に入った客を
占ってくれるということらしく、すっかり映画監督になっている北野T、
タレントのF原N香なども来ると。占いに目がない僕は、早速この話を
師匠(現・フューチャーテクストの前田知巳氏)にし、2人でこのバーに
行くことにした。この時点では、僕だけが盛り上がっていた記憶がある。

まあいろいろあって、僕らは占ってもらえることになった。その結果、
前田さんは「言うこと無し!これから7年、何やってもうまくいく!」と、
素晴らしい結果が出た。しかし(僕にとって)問題はその後だった。

「この子あんたの弟子なのかい?この子が弟子でも、あんた何っにも
トクしないよ!こいつはあんたから奪うばっかりだ」と、オバサンが僕の
存在価値を完全に粉砕。しかも僕の占いの結果は「あんた3年損した」
というもので、何に較べて何をどう3年損したのかも説明されず、ただ
「ご先祖の供養をしなさい」と言われ、それ以上の話はなかった。

とりあえずひたすらムカっ腹が立ったのだが、どうしても最後に言われた
先祖の供養をせよ、という言葉が気がかりだ。ただ、その方法は、半紙に
五穀をくるんで墓石の四方に埋め、酒を撒き、お参りするというもので、
とても面倒くさい。しかも林家の墓は多摩霊園にあり、地理的にも遠い。
そんな占い知るか!と思って無視すればいいのだが、こういう時、人間は
なかなかそういう気分になれないものである。なんてったって相手は霊だ。

一念発起して、やはり墓参りをすることに決めた僕は、さしあたって五穀を
手に入れなければならなかった。都立大学駅近くにあるナチュラルフードの
店に行き、店員に五穀を置いているかどうか訊いてみる。

「すいません、五穀が欲しいんですけども・・・」
「でしたら、今はこちらの『十穀』の方がおすすめですよ♪」
「いや、あの、どうしても五穀がいいんですが・・・」
「アレルギーがおありなんですか?」
「その、まあ、そういうわけではないんですけど」
「でしたら、こちらが絶対おトクです!栄養も倍ですし」
「五穀はないんですかね・・・」
「うちではこの『十穀』だけの扱いになっておりまして」
「わかりました・・・それをください」

かくして僕は五穀に較べて栄養も倍の十穀を墓の周りに埋め、酒を撒いた。
そして・・・その後すぐに僕は大阪に転勤になった。

大阪にいた期間は、3年と10ヶ月。占いの「3年」と符合しなくもない。
ただ、僕の大阪生活は素晴らしく楽しかったし、大阪に転勤しなければ、
沢山の友人も、沢山のお気に入りの店も、「一本いっとく?」を書くことも
なかったわけで、損どころか、僕の人生でも非常に貴重な時期になった。

それではあの占いババアが言ったことはデタラメだったのか。いや、その後
博報堂を辞め、フリーで順調な前田さんを見るに、占いは当たっていた。
ということは、この逆転の立役者は、もしかして「十穀」なのだろうか?!
だとしたら、あの店員には報告しないといけない。「御利益も倍でした」と。

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