リレーコラムについて

明石町SLタワー日誌(その5)

中山幸雄

僕の担当するコラムもきょうで最後になった。
はたして、どれくらいの人が読んでくれて
いるものやら検討がつかないが、タイトルを
「明石町SLタワー日誌」とした割りに
僕がどんなところでどんなふうに働いている
か、あまり書いてこなかった気がした。
最終回はそのあたりを少し書いてみる。

僕の勤めている、この明石町SLタワーは、
地下鉄有楽町線・新富町駅、もしくは地下鉄
日比谷線・築地駅から徒歩7、8分のところに
ある。階数は正確には知らないのだが、
28階までは記憶しているので30階以上あるに
違いない。屋上には展望レストランがあって
観光しにくる人も多いのだが、味がたいした
ことない割に値段が高いので、僕は行かない。

僕のいる第1クリエーティブディレクション
局は16階と17階のそれぞれ半分ずつを占めて
おり、中山チームは16階にある。エレベータ
ーが来るのが遅く待ち時間が長いとか、SL
ビル内にうまいメシを食わせるところがない
とか、気に入らない点はあるのだが、この高
さから眺める夕焼けは絶景である。僕の背後
にある窓からは富士山と東京タワーがほぼ同
じ位置に見える。そこに夕陽が沈んでいく姿
はなんとも言えない。男子トイレのある位置
の窓からは隅田川が見え、お台場の風景が広
がる。新しい東京と古い東京が、ガラス窓の
フレームの中で共存している。

第1CD局の局員は、12月1日現在で134名。
その他に派遣や出向のスタッフが20名近くは
いるだろう。僕のようにスタッフを持つCD
は全部で12名。その他にスタッフを持たない
CDが6名いる。それ以外にCP(クリエー
ティブ・プロデューサー)部があり、ここに
2名のCPを含め20名。後は、業務管理部の
スタッフが7名いて、現場のスタッフをサポ
ートしている。局長と次長4名が局全体を
マネージして、一つのバーチャル・エージェ
ンシーを形成している。

CDがどんな仕事をしているか、実はよく理
解されていない。人によってもずいぶんやり
方が違うし、担当するクライアントによって
期待される役割・領域が変わってくる。ただ、
この10年間で、日本の広告界はCD制度に完
全にシフトしたと言ってよい。アメリカ・イ
ギリスはじめ、世界の趨勢はもうとっくにそ
の方向で進化・変化を続けている。

従来はコピーライター、アートディレクター、
CMプランナーをワンセットにしてCDが
たばねるスタイルを取ってきたが、僕はこの
二、三年、完全にやり方を変えてしまった。
僕は二人をセットにして「デュオ」と呼ぶ。
欧米型はコピーライターとアートディレクタ
ーをほぼ固定的にワンセットにして、そのチ
ームをCDがディレクションしていく。その
欧米型をもっと柔軟に組み替える。日本には
CMプランナーというテレビCM、ラジオC
Mの企画を専門にする職種があるので(僕も
その出身)それを活かさない手はない。

僕のつくるデュオは、言語系スタッフと視覚
系スタッフの二人を基本とする。コピーライ
ターは言語系、アートディレクターは視覚系
であることが多いのだが、CMプランナーに
は言語系・視覚系の両方がいる。その場合、
それと異なるスタッフを組み合わせる。この
デュオは原則、テレビ・印刷・SPなんでも
企画する。つまり、自分が責任を負った商品、
ブランドについてはトータルなプランニング
が要求される。

さて、そのデュオを組み合わせる基準がなに
かと言うと、それは「ケミストリー」に基づ
く。ケミストリー=CHEMISTRYというのは僕が
発明した言葉でなく、実際、英語圏の広告ク
リエーティブの世界で使われている言葉で、
翻訳してしまうと味が薄れるのだが、しいて
言えば「相性」とかウマが合うといったとき
の「ウマ」に当たる。僕は生物物理学科卒業
なので、化学反応にあたるケミストリーとい
う言葉に非常に興味を持った。

以来、研究と実験を重ね、僕のチームでは50
通り以上のデュオを作って、どのデュオの
ケミストリーがよいかを調べ、機能するデュ
オだけを残して、そこに仕事を入れるように
した。僕のチームだけでは50通りもできない
のだが、僕は仕事に最適なデュオを作るため
にはどんな手でも使う。第1CD局の中はもち
ろん、場合によっては他の局から、社外スタ
ッフも単なる協力スタッフでなく、デュオの
片割れとして起用することもある。

そうして生まれたデュオを同時に10組から20
組くらい走らせておいて、僕は次から次へと
デュオを渡り歩いて、自分もアイデアを出し
ながら仕事を同時進行している。
いまのところ、僕の「デュオ&ケミストリー」
システムは割合うまく機能している。もちろ
ん日々の現実の変化に応じてシステム自体が
進化するように心がけている。

以上の方法論は、僕の同僚のCDたちには
最新の細かなデータをつけて共有している。
まぁ、運用の仕方などもあるし、オレはそん
なやり方には興味がないという人も当然いる。
したがって別に秘密にしておく必要もないの
で、このコラムに書いたところで上司に叱ら
れることもあるまい。だいいち、僕が考えた
ことなんだから。
僕が興味があるのは知のダイナミズムであり、
個人とチームの機能の仕方によって、それが
どう最大化されるかということなのだ。

CDの仕事を説明していくと、どうしても
理論や理屈が必要になるので、興味のない
読者には退屈だったかもしれない。まぁ、
ギャラをもらって書いているコラムでもない
ので、お互い寛大になろうではありませんか。
もし5回続けて読んでくださった方がいたら、
その方たちにはお礼を言いたい。僕の雑談に
付き合っていただいて、どうもありがとう。
雑談というのは相手がいないとひとりごとに
なってしまうから、危ない人である。妄想は、
ときどきカタチにして吐き出しておかないと
精神衛生にも悪い。こうして長い文章をとき
どき書かせてもらうのは、案外楽しいことです。
声をかけてくれた内田さん、ありがとう。
今度、中山佐知子の「カンヌレポート99」
(著作権は僕が持っている)を持っていきま
すから、最近の話を聞かせてください。
それから、僕が下水管になったとき、ピンチ
ヒッターにたってくれた中山佐知子にも、い
ちおうお礼を言っておかねばなるまい。また
も僕のブランドイメージが落ちたような複雑
な気持ちではあるが。

さて、来週は、伊東屋のポスターの仕事で
今年新人賞を取った林まり子さんの登場です。
直木賞の林真理子さんとは違います。
どうぞ、ご期待ください。

では、機会があれば、またどこかで。

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