リレーコラムについて

ジェノベーゼ

山田大輝

「矛盾している」

そう言われることが多いが、
私はバジルが好きで、
“しそ”が嫌いである。

次に家族として迎えるワンちゃんには、
バジルという名前をつけることも決まっているくらい、
バジルが好きだ。
(ちなみに、むかし飼っていたワンちゃんの名前はトマト)

バジルは、シソ科メボウキ属の葉っぱ。
シソは、シソ科シソ属の葉っぱ。
属性が違うのだから、好き嫌いはあって良い。
ヒトカゲとゼニガメは違う。

*

そしてやはり、バジル好きとして
ジェノベーゼには目がない。

*

ある日のお昼ごはん。
パスタ屋さんの日替わりメニュー。
そこには【しそジェノベーゼ】という記載があった。

なるほど。

こちらは至って冷静だ。
焦ることはない。

これまで何度も、しそ(大葉)とは戦ってきた。
とんかつは注文時に回避できるし、
ウニはネタが落ちないように丁寧に大葉を取り除くことができる。
戦歴は全勝だ。

そもそも。
しそ(大葉)を人類みなが好きだと思っている時点で大間違いだ。
彼は引き立て役なんかじゃない。
メインの味を殺してしまうチカラさえ持っている。
料理人のみなさんには、
アンコンシャスバイアス研修を受けていただきたいものだ。

話は逸れたが、今回の戦いでは「回避」が最適だと考えた。
パスタに混ぜられると、取り除くのは至難の業だ。
迷わず、店員さんに注文する。

しそジェノベーゼの「しそ」抜きでお願いします。

店員さんは困惑している。
面倒くさい客で本当に申し訳ない。

店員さんは、厨房にコソコソとオーダーを伝えている。
面倒くさい客で本当に申し訳ない。

シェフは、オーダーを聞いて大笑いしていた。
面倒くさい客で本当に申し訳ないが、そんな笑われることか?

店員さんは、再度確認しにやってきた。
面倒くさい客で本当に申し訳ないが、変更はない。

問題なくオーダーが通ったのか、厨房は慌ただしくなった。
でもなぜかクスクス笑われている気がする。
あまりいい気持ちはしない。

*

料理が運ばれてくる。
待ちに待ったジェノベーゼだ。

しかし、テーブルに置かれた料理は想像していたジェノベーゼではない。
パスタであることは間違いない。
ただ、緑でないのだ。
唯一の緑は、さやいんげんのみ。
プレーンなパスタに、じゃがいもが混ぜられている。

これは、ほっともっとのおかずの下に敷かれているやつではないか。
あの胡椒と油を絡めただけのパスタだ。
嫌いではないが、求めていたのはジェノベーゼ。
オーダーミスでクレームの対象だ。
Googleでレビュー★☆☆☆☆だ。

ま、間違ってないですか?

この問いにはシェフが丁寧に回答してくれた。

ー バジルソースを使ったパスタがジェノベーゼではありません。
ー 今日の日替わりは、バジルの代わりに、
ー しそを使ったジェノベーゼとなります。
ー ちなみに、日本では緑のパスタがジェノベーゼと呼ばれていますが、
ー 本場のイタリアでは茶色いんですよ。

!!!

衝撃とともに、
恥ずかしさが襲いかかる。
はじめて黒星を喫した。

ジェノベーゼ=バジルという考えが間違いだった。
ジェノベーゼは「しそ」でも成立する…?
しそベーゼ…

しかも、本場イタリアのジェノベーゼはまた違うという。
調べてみたら、本当に茶色だった。
私が求めていたあの緑のジェノベーゼは、
「ペスト・ジェノベーゼ」が正式名称と。。

アンコンシャスバイアスの研修を受けるべきは、どうも私らしい。

*

そういえば、青じそドレッシングは好きなのを思い出した。

やっぱり、「矛盾している」

*

*

*

これにて、私のリレーコラムはおしまいです。
拙い文章でたいへん失礼いたしました。
もう登場しません。

次のバトンは、
マウントレーニアの「もしも東京の真ん中に、山があったら。」で、
今年のTCC賞を獲得された電通の伊藤みゆきさんに渡ります。

大学・サークルのひとつ上の先輩。
ずっと背中を追っている先輩にバトンを渡せるのは、
とても感慨深いものがあります。

 

表彰式で逢いましょう!

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