リレーコラムについて

世界を旅する結婚披露宴と、式場のFさん。

歓崎浩司

東京から北海道までが陸路で4時間。
北海道新幹線が開業したその年、
僕は妻と結婚式を挙げました。

「これまでで一番印象に残った仕事は?」

と聞かれると、僕はいつも、
この結婚式を思い出します。

仕事ではないのですが、
これまで広告で培ったスキルを
全力で注ぎ込み、妻とともに、
そのとき僕たちができる限りの
アウトプットを実現したのです。

世界を旅する結婚披露宴。
World Wedding Tour

異常なまでに妻とこだわり抜いた結婚式を
ふたりのそばで支えてくれた、
式場のFさんについて書きます。

大きなテーマを考えくれたのは、妻です。

ふたりの共通点である、海外、旅を軸に、
これまでふたりが訪れた国や都市を、
これまでお世話になった方々と一緒に
食事やお酒、音楽、動画を交えて
疑似体験してい頂くことで、
ふたりのお披露目としよう、と。

料理はもちろん、フルオーダー。
ふたりが訪れた国や都市にちなんだ、
食材やお酒で構成したい。

その料理が振舞われるときは、
その国や都市にちなんだ、
照明、音楽、映像、空間をデザインしたい。

とことん、こだわり抜いたものを。
その思いだけは、妥協したくない。

式場は見つかりませんでした。

ウェディング業界から
ブラックリストに載るんじゃないか。

いくつも式場をめぐっては
断られ、呆れられ、悩まれ、拒まれ。

何かをあきらめなくてはならないのかと
妻と僕は途方に暮れていました。

「おもしろいですねそれ!やりましょう!」

大きなチャレンジに必要なもの。
それは出会いだと思いました。

企画を実現するために必要なこと。

どんな難題でもすぐに「無理だ」と
否定するのではなく、
「どうすれば実現できるか」を
一緒に考えてくれる、ビジョンを共有した
「仲間」との出会いだと思います。

妻と僕のこだわりすぎた結婚式は、
恵比寿にある式場にいた
Fさんと出会わなければ実現しませんでした。

「難しいことだらけですが」と苦笑いしながら。
「やってみましょう!」と。

二人三脚、いや、妻と僕とFさんの、
三人四脚の式づくりが始まりました。

2016年6月11日。

梅雨ど真ん中の恵比寿。
天気予報では大雨の予定。

「傘の準備どうしましょうか」と
雨の際の対応も進めていました。

結果は、晴れ。

晴れ女の妻。撮影の時はいつも晴れの僕。

自信があったわけではありませんが、
これまでの準備の努力を、
天気の神様がみていてくれたのか、
そう思うほど、雲ひとつない快晴。

まずはガーデンウェディングとして
挙式を行いました。

中庭に集まった、120人。

僕の実家神戸から、
そして妻の実家函館から集まった親族たちと、
ふたりが人生でお世話になった方たち。

World Wedding Tourというコンセプトのもと、
式の招待状には飛行機の航空券の
デザインを施していました。

ロゴには、妻と僕が飛行機に乗った
手書きのイラスト。

後輩のアートディレクターが
一から作ってくれました。

ポスターなどあらゆるデザインは、
日本の航空会社をモチーフにした赤と青で構成。

Welcome Drinkも、
赤と青のカクテルを用意しました。

フラワーシャワーではなく、
ひとつひとつ手で折った
小さな紙飛行機を配りました。

そして、オープンカーで入場した、
妻と僕に、大きな拍手が湧きます。

運転の苦手な僕に変わって、
新婦の妻がハンドルを切ります。

妻と僕の知人三名に、
誓いの言葉をお願いし、結婚宣言。

天気が良すぎて汗だくになる人も。
(逆に暑すぎましたね、すみません。)

そんな挙式中に、
僕は大きな不安がありました。

披露宴で流すはずの動画が、
まだブルーレイディスクに
焼けていなかったのです。

ガーデンで行なった挙式のあと、
僕は急いで控え室に戻りました。

Macの外付けBDドライブから、
青い円盤が「ニュン」と出ていました。

「よかった!間に合った!」

まだ誰もチェックしていない動画。
当日の公開が初めての確認となりました。

動画は無事に再生されました。

360度スクリーンを彩る動画も、
もちろんオリジナル。

大学時代の映画サークルの
友人が作ってくれました。

飛行機の安全ビデオをモチーフに、
妻と僕が出演するオープニング動画。

「料理を楽しんでいただくため、
シートベルトは『おゆるめ』ください。」

そんな遊び心を織り交ぜた動画のあと、
司会を引き受けてくれた
現役テレビアナウンサーの友人が
見事な進行で会を勧めてくれました。

「え?台本ないの?」

すみません、コンテンツの羅列くらいしか…
プロのアナウンサーに、
大変失礼なことをしてしまった。

「これまでの仕事で一番緊張した。」
そんなダメ出しを後でもらいましたが、
やはりプロはプロ。

彼のアドリブで
会場はどんどん盛り上がっていきます。

こだわって作りこんだ白いドレスを纏った
妻の手を僕はとりました。

「動画流れてよかったぁ」とホッとした僕は、
中身が空っぽのスーツケースを引いて入場。

カバンは、もう重くはありません。
僕には、もう不安はありません。

妻と僕が出会った、
免許合宿先の新潟の
スパークリング日本酒で乾杯。

僕のふるさと、神戸のタコと、
妻のふるさと、函館のイカの
紅白のお刺身。

六甲のおいしい水で
北海道のお米を炊いて作った
ウェディングケーキならぬ
ウェディング「巨大おにぎり」に入刀。

留学先のメキシコで食べたタコス。
テキーラで乾杯。

妻が留学していたボストンの
クラムチャウダー。

ふたりで参加したスペイン。
(トマト祭りが懐かしい。)
大学時代ふたりの卒業旅行で訪れたフランス。
妻と妻のお母さんが旅したイタリア。

ヨーロッパの食材でオードブルが振る舞われ、
レモンチェッロでまた乾杯。

妻がお義父さんとお色直しで退場。

僕は未だ現役で卓球を続けている母と、
卓球のラリーを披露しました。

「まだ続く!歓崎家安泰!素晴らしい!」
現役アナウンサーの実況は見事なものでした。

参列者の旅は続きます。

妻が働いていた、
オーストラリア、ニュージランド。
ふたりで旅したハワイ、バリ島。
新婚旅行で行った、ガラパゴス諸島やアマゾン。

南国のフルーツで箸休め。

ロンドンオリンピックの時に
妻が働いていたイギリスからローストビーフ。
(どんだけ料理出すんだよっ!)

そして、和と洋をハイブリッドし、
こだわって作った和ドレスを着た妻と、
そのおこぼれで作った和ネクタイの僕が再入場。

入刀した巨大なおにぎりから
ひとつひとつ握ったおにぎりと、
妻の親戚に頂いた、
北海道の昆布でとった出汁を持って。
(お腹いっぱいだって!)

私たちのWorld Wedding Tourは
日本に戻ってきました。

デザートに出したのは、
ふたりが住む両国から最中を。
(もう食べられませんっ!)

そして妻の弟が所属していた、
大学の応援団たちが現れ、弟が率いる、
大学応援団の圧倒的パフォーマンスに
会場はその日一番の盛り上がり。

宴もたけなわとなった頃、
会社のチャレンジ施策の一環として
妻と僕のDNA塩基配列をもとに作った
音楽が会場に流れ、
ふたりでそれぞれの両親に手紙を朗読。

僕の父の挨拶、そして僕の挨拶で、
壮大な世界を旅する結構披露宴は結びに。

360度スクリーンでは、
ふたりのイラストがぐるぐる回り、
その国、その都市の思い出の写真を
見ていただきました。

それぞれの国や都市の友達から、
それぞれの国や都市の言葉で、
お祝いの動画メッセージを頂き、
会場で流しました。

ロシア、トルコ、マンチェスター。
ハワイ、フランス、ニューヨーク。

メキシコのTからも、
スペイン語でお祝い頂きました。
(テキーラ飲んでました。)

割り箸入れ、預け荷物のタグ、
座席の名札、席次表も、すべてふたりで用意。

ひとつひとつ印刷し、手で折り込みました。

名札は飛行機の預け荷物に巻かれる、
航空会社のタブをモチーフにしたり。

ひとつひとつに、こだわりました。

式場の方をCAに見立てたスカーフ。
高砂には直径1メートルの植物の地球。

書ききれないくらい、こだわりました。

本当にたくさんの方々の協力で、
この式を行うことができました。
(改めましてみなさん、ありがとうございました!)

 

長文ですみません。

思い出しただけでも、
よくこんなコンテンツ盛りだくさんな
結婚式をやったもんだと。

そしてそれを、
「おもしろいからやりましょう。」と
よく引き受けてくれたもんだと。

妻と僕は、結婚式が終わった後、
ビジネスという関係ではなく、
式場のFさんと飲みに行きました。

僕が式場のFさんから学んだこと。

「無理だ」「できない」というものほど、
「おもしろがって」やってみるということ。

簡単なものや、誰がやってもいいものよりも、
みんなが嫌がる、難しいことに挑む方が、
結果、いい経験ができるということ。

僕の師匠、東畑さんが、

「成功したらヒーロー、失敗してもチャレンジャー」

とおっしゃっていました。

まさにそうだと思います。
そのためには、まず「おもしろそう」と考えること。
そして「やりましょう」と仲間になること。

僕の今までの仕事観を、
式場のFさんは身を以て具現化し、
それからの僕の仕事の軸を作ってくれました。

今、Fさんは九州で新しい挑戦を続けています。

きっと「おもしろそう!」だと険しい道を選び、
「やりましょう!」と仲間を率いて、
日々、活躍されていることと思います。

働くって、なんなんだろう。

働くことを日々考えていたとき、
僕は働き方をどうするこうする、と考える前に、
働くことは、おもしろい、という前提がないと
より良い改革はできないんじゃないかと。
そう思ったのです。

良し悪しあると思います。

思いますが、
「働くことが、いいこと」だとしたら、
その窓から何が見えるだろう、と。

「働くって、いいもんだ。」

自分が退職する時、そう思えたなら、
自分の仕事人生は、きっと報われるだろう。

これからもひとつひとつの仕事に
丁寧に向き合い、おもしろがり、結果を残す。

その繰り返しが、いい仕事に、いい未来に、
きっとつながっていると信じて。

TCCリレーコラム。

毎日何を書こうかと悩んでいました。

自分の自己紹介を言葉を通じてやってやろう。
それって「おもしろそう!」と鼓舞し、
今日まで全五回、書き続けました。

長文、駄文、失礼しました。

次のバトンを受け取ってくれたのは、
前回の小山真実と僕と同じ会社、同じ部署の、
今年のTCC新人賞同期、早坂くんです。

「おもしろそう!やってみます!」とは
全く反対のリアクションでしたが、
「…名誉なことですよね!」と、
やる気に満ち溢れていたので嬉しかったです。

これまでコラムを読んでいただいた皆さん、
ありがとうございました。

早坂くん、よろしくお願いします!

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