僕だからこそできる作詞って?
ラーメンを想像してほしい。
できたてホヤホヤの一杯に湯気がたちのぼる。
いただきますと小さく言い、手を合わせる。
似た幸せを味わっていたように思う。
できたてホヤホヤの歌詞を、
スタジオで歌ってもらった時。
そこには感動があって、
両手をぎゅっとにぎりしめて、
ここにいられる幸せを噛みしめていた。
作詞にはじめて取り組んだのは2016年。
映像作家のエリザベス宮地さんが、
Webドラマをつくる際に、
「阿部さんにテーマソングをお願いしたい」と、
依頼してくださったところからはじまる。
未経験。できるか、できないか。
迷いなんて追いつかないくらいの速さで、
「ぜひ!」と僕は即答していた。
「見えないモノを見ようとして 望遠鏡を覗き込んだ」
BUMP OF CHICKENの「天体観測」という曲。
十代の頃に聴いてから、ずっと心の中で生きている。
何度だって再生される「歌う言葉」の世界に関わりたかった。
(ちなみに今もリピートしながらこの文章を書いている)
言葉と向き合いつづけてきたから、
なんとかなる。なんとかするのだ。
なんとかする方法は知っているから。
「強くてニューゲーム」
この言葉を、あなたは知らないだろうか?
テレビゲーム、とりわけRPGにおける用語で、
進行中(もしくはクリア後)の状態で、
最初からゲームを開始することができる機能だ。
コピーライターとして働いてきた中で、
偉大なる先人たちに学ぶということは、
欠かさずやってきた、その取り組み方を、
作詞でも活かそうと僕は考えた。
そこで出会ったのは阿久悠さんだった。
ピンク・レディーの「UFO」。
和田アキ子の「あの鐘を鳴らすのはあなた」。
フィンガー5の「学園天国」。
あまりにも有名すぎる曲の数々。
昭和が生んだ天才作詞家とも呼ばれる阿久悠さんが、
コピーライターとしてキャリアをスタートし、
放送作家を経て、作詞家になったのだと知ると、
心の距離が急激に近くなった。
阿久悠さんは、
作詞に向かうその手法を、心の在り方を、
惜しげもなく、書籍に書き記していた。
「こっちにおいでよ」
まるで、そう言ってくれているみたいに。
「来れるものならね」
おそらく、愛のある厳しさとともに。
いくつもの書籍を読み込む。
阿久悠さんの言葉の中で、
特に心に残った言葉がある。
「戦略と創作が一体になって時代の騒ぎになる」
ああ、そうか。と思った。
創作の奥底には戦略があるべきだし、
戦略が孤立しない創作が必要なんだ。
そこに企てがあるかどうか?
それこそ、僕自身が何年もかけて、
日々、培ってきたことだった。
コピーライターとして、
プロデューサーとして、
出会ってきたいくつもの感情をもとに、
向かうべき先を見定めて、作詞をする。
キャッチフレーズを書くように磨き、
手紙を書くように全体をまとめていく。
そうすれば「自分だからこそ」にたどりつける。
「傷ついて傷ついてわたしになっていく」
最初に依頼をしてくれた、
エリザベス宮地さんに贈ったサビの1行。
そこから今に至るまでつづけてこれている。
冒頭の話に戻る。
できたてホヤホヤの歌詞を、
スタジオに、持っていった。
それは、2018年の冬。
フォークデュオ「さくらしめじ」と、
はじめてご一緒させてもらった時のことだ。
刻一刻とせまるクリスマスライブ。
そこで初披露する曲を、ぎりぎりまで、
スタッフの皆さんと詰めていた。
ライブに向けてスタジオで練習しているふたりに、
「できました!」と歌詞を持っていく。
僕は歌う様子を入口近くの椅子でじっと聴いていた。
「先に言うね」という曲だ。
紙に記した言葉が立ち上がり、音楽になっていく。
そこには、胸一杯の感動があった。
音楽とは、という大きな問い。
伝えたい、があるから歌が生まれていく。
たとえ、どんな状況になったとしても、
絶望を突き破り、希望の歌が生まれていく。
こう思うのは、2020年の3月に、
振り返っているからかもしれない。
でも、音楽に関わる一人として、
ほんとうにそう思っている。
(つづく)
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