リレーコラムについて

石に刻め

鈴木拓磨

こんにちは。
スコピー鈴木拓磨です。

 

札幌の隣の小樽、
そのまた隣の余市には、
岩の壁に彫られた絵が残る
洞窟がある。
今から1500年ほど前、
続縄文時代に属する遺跡だという。

小樽で生まれ育ったため、
洞窟の存在は幼い頃から
なんとなく知っていた。
だが、初めて見に行ったのは
大人になってから、
コピーライターになってからだった。

ドライブのついでに
たまたま気が向いて立ち寄った
余市のフゴッペ洞窟で
1500年前の人が刻んだという
人や舟や獣を描いたといわれる
岩の壁の絵を前にして
不覚にも泣いてしまった。

おれの祖先は明治時代に
本州から北海道に来たので、
この岩に絵を刻んだ人は
直接の祖先だとは考えにくい。
それでも1500年という
気の遠くなるような歳月を経て
人から人へ、なにかが
伝達されているという事実に
琴線をいじくり回されたのだった。

 

知られる/知る
ということを考えるとき
メディアの問題は避けて通れない。
雑な書き方になってしまうが
なにかがだれかに知られていくとき
そこに介在するものは
だいたいなんでもメディアだ。

デジタルメディア。
テレビやラジオ。
映画に蓄音機に電話に写真。
新聞、雑誌、書籍。
活版印刷、手書きの写本。
木簡、パピルス、粘土板。

岩。

岩はすごいな。

気合い入ってる。
OOH最強メディア。
岩。

メディアにはそれぞれの特性がある。
メディアの選択はそれ自体が
なんらかの意図や意志を内包する。

洞窟の岩に絵を刻んだ
1500年前の人が
1500年後にも知られたいと
思っていたかはわからない。
そもそも岩に刻むしか
選択肢がなかったのかもしれない。

それでも
「残したるわい!」
という気持ちがなければ
こうは残らなかろうと思うのだ。

実際のところはわからないが
そこにもまた
胸を打たれたのかもしれない。

われわれの書くコピーにも
いろいろと種類があって
その場限りの最大瞬間風速を目指すものも
できるだけ長く使えればというものもある。
1日、1ヶ月、1年、10年。
耐用年数は時と場合による。

このまえ東京を歩いていて、
たまたま通りがかった
でっかいビルの前で
一本のコピーを見た。

それは石に刻まれていた。

決して大きくはないが
堂々とした佇まいを前にして
涙も出ず
しばし立ち尽くすだけだった。

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