「クッキー。黒いから、クッキー」
こんにちは。ひとりっ子を運命付けられた女、日比野鮎子です。
「ひとりっ子」は、わがままだとかマイペースとか、いろんなことを言われますが、妙齢になると全く別の意味を持ち始めます。それは「親の面倒を見るのが自分ひとり」ということです。
四日目の今日は、初日に「詩人の娘です」と自己紹介したあれを、伏線を、回収するべく父の名言を紹介しようと思います。
そもそも「詩人」ってどんな存在なの?と思われるかもしれませんが、実は詩人はこの国にたくさんいます。ごく一部を除いて、彼ら彼女らは自費で詩集を出版し、その本をお互い送り合って、読み合って詩を続けています。つまり「同人誌(詩)」ということですね。父はそのような形で、私が幼い頃からずっと、自分の詩集を出し続けています。ときどき何かの賞をもらったとか、詩の講演をしたとか、いい話も聞くことがありますが、まあ「谷川俊太郎さん」とか、そういう有名人では全くありません。
詩人の娘あるある(これが通じる人が全国にどのくらいいるのか、わかりませんが…)で言うと、まず家にすごい量の詩集が届きます。郵便受けにペンネームが書いてあるのです。小さい頃からそれが当たり前でした。それから、家に「束見本」、中身が真っ白な本がいくつかありました。詩集の装丁を決めるためでしょうね。私はそれをもらって自由帳にして、マンガなんか描いていました。すごく立派な自由帳でした。
さて冒頭に「親の面倒を見るのが自分ひとり」と書きましたが、詩人ほど現実が嫌いな人間はいないと思います(全国の詩人の皆さん、偏見すみません)。母が存命の頃は、現実の全てを母が引き受けていましたが、ずいぶん前に他界し、今は娘の私がひとりで、自分だけでなく父の現実も引き受けています。
「猫を飼いたい」とか、「役所に代わりに行ってほしい」とか「カフカの全集をAmazonで買って欲しい」とか、そういうことを逐一私がやらなくてはならないのです。つまるところ、私にとっては、「ちょっと面倒くさいおじいちゃん」でしかないわけですね……。
ここ10年くらいは父も年老いてたくさんの病気をし、その度に私は「キーパーソンの娘さん」として、様々な同意書にサインをしたり入院費を払ったりしてきました。正直、大変です。だからでしょうか、父の詩集って、まともに読めないんです。なんだか「ちょっと面倒くさいおじいちゃん」が頭に浮かんできてしまって、恥ずかしくて本を閉じちゃうんです。わかっていただけますよね?
ということで今回、名言を紹介するために、たくさんある父の詩集を読み返してみましたが、やっぱり恥ずかしくて「無理」となってしまいました。自分が言葉を仕事にできているのは、父のおかげも大きいのだろうから、感謝はしているんですけどね。仕方がないので詩ではなく、父が去年飼い始めた黒猫の名前を、今日の名言にしたいと思います。この名付けはなかなかよかったと思っているので。あと、私の名前。これもなかなか、いいんじゃない?なんて思っています。
「クッキー。黒いから、クッキー」
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