「変わらない言葉」
忘れられない出来事、ということが人生には起きる。
まだ20代だった。合コンに行ったときのことだ。
男性3人、女性3人。内訳は、
コピーライターが3(男2、私1)、
あとの3人は有名企業にお勤めの方だったと思う。
当時はまだ「コピーライターとは?」の説明の必要はなかったように思う。
とはいえ珍しい職業。男子たちは、
さっそくキラキラ女子たちの質問攻めにあった。
「で、どんなコピーを書いたんですかー?」
たしか二人ともすでに新人賞をもらっていた。私はまだ非会員。
宴もたけなわとなり、照れながらも書いたコピーを披露したA君。
「〇〇〇〇〇、〇〇〇〇だよ!」
しーん、となった。キラキラ女子たちは
「えっ、私知らなーい!」「私も、聞いたことなーい」と臆せず述べた。
そっかあ・・・そうだよねえ〜(傷つくわぁ)と頷いていたら、
隣で言った本人が凍り付いている。
そんな相方を助けようと思ったのか、B君も男気を見せた。
「僕が書いたのは、〇〇〇〇〇〇。まあ知らないと思うけど」
知らなくても平気の注釈付き!
しかしキラキラ女子たちは、やはり無情にも無邪気だった。
「ごめーん、わかんなーい」「何のコピー?」
もう飲むしかなかった。
後日、軽いショックとともに、いったいこの仕事とは何なのか
ひとり反省したが「わかりにくいのはダメだ」これに尽きるように思った。
みんな、わかりやすいのがいい。私もわかりやすい方が好きだ。
魚屋は魚を売り、コピーライターは言葉を売る。
言葉売りがわかりにくいなら、
わかりやすいアイコニックな言葉を目指せばよい。
そこらの子供に言っても「へえ、あれか!」という仕事がいいなと思った。
それがコピーライターの仕事だよな、とも思った。
あのひとも、あのひとも。みんな知ってる言葉の生みの親だ。
***
これが20年以上前に私が目指したコピーライター像でした。
持ち前の運の良さ、めげないしつこさ・・・などなど、
おかげさまの理由は探せばいろいろあるでしょう。
けれど、どうなりたいか、を明快に描いていましたし、
目の前の仕事に夢中になりながら、雨の日も風の日も
それをたんたんとやってきたに過ぎません。
わたしは変わらない言葉が好きです。
いつ見ても何度でも腹落ちするような。
そんな言葉に惹かれる理由は、年をかさねてしみじみと
「人間のほうが変わるからだ」と思うようなりました。
方丈記の冒頭に書いてあるとおりです。
ゆく川の流れは絶えずして・・・です。
明日もあさってもたぶん私は私だ。
福岡伸一さん的には動的平衡かもしれないけれど、
私の心は同じである保証はない。
だから変わらない言葉を見て、
きのうと同じように「いいなあ」と思う自分がいて、ほっとする。
そんな感じ。
新しい表現=キャッチコピーが次々と求められる広告業界で
けっこう浮いてるなあと思います。今も。
広告からすこし活動エリアも広がって。
キャッチコピー(ツカミ言葉)も作っていますけど、
売りにつながるのって考え方だなあと思っていたりするので
そっちを重視していたり。まあ、いろいろです。
ただ、変わらない言葉をお渡ししつづけていると、
街中でばったりと出会うこともあって。
それはがんばっている旧友に久しぶりに会うようで。
私は元気をもらっていたりします。
明日につづきます。
原さんからバトンをありがとうございます。坂本和加です、一週間お世話になります。
原さんと俳句と土屋さんの話で盛り上がりたいです。直メする♬
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