「糸井重里と仲畑貴志のコピー展」のこと
本の話はしないのか、と宣伝会議の人から思われているような気がします。
コピーライターの三島邦彦です。
それはさておき、
鎌倉の喫茶ギャラリー「アピスとドライブ」で開かれている
「糸井重里と仲畑貴志のコピー展」に行ってきました。
鶴岡八幡宮につづく桜並木は満開で、小町通りは大混雑。
人はこんなにもゆっくり歩けるものなのかという状況でしたが、
展示会場の「アピスとドライブ」は鶴岡八幡宮とは駅を挟んで反対側。
佐助稲荷神社の方角へ気持ちよく散歩できる道のりです。
到着すると、茶室のように凜とした空間に四十人のコピーライターやCMプランナーがそれぞれ選んだ糸井さんと仲畑さんのコピーと、そのコピーに寄せる文章が展示されています。
糸井さんや仲畑さんのコピーに対して生半可なものは書けないという熱量がすべての原稿に一貫してあり、空間に独特の緊張感がみなぎります。糸井さんと仲畑さんのコピーの前では嘘がつけない。思いのたけをぶつけるしかない。そのコピーは必ずそれを受け止めてくれるから。という信頼。小学生だった頃、大学生だった頃、コピーライターになりたてだった頃。四十人がそれぞれの時空間に立ちながら語る文章を通じて、それぞれ人の見たことのない部分、知らなかった部分を知ることができる展示でもありました。
四十年前に書かれたコピーが、目の前に立ち現れるということ。繰り返し思い出されれば、媒体費がかからない。記憶に残るというコピーの重要な役割。それを信じられないくらいの長さで達成しているコピーたち。その凄みに打たれるものがあります。
僕にとって糸井重里さんや仲畑貴志さんはブッダやキリストのような存在というか、孔子や老子のような存在というか、経典としてコピーを素読する対象です。なので、実体験に基づくものというよりは、二人のコピーを通じてコピーを学んだものとしての、祝詞のような気持ちで書きました。
選んだコピーは「正直を、笑うな。」という仲畑さんのコピーです。
むしろ今、なコピーだと思います。普遍とは、常に「むしろ今」であるということなのかもしれません。
展示会場にはさまざまな人が真剣に原稿を見つめていました。コピーライターであり「アピスとドライブ」の店主である後藤国弘さんは若い人が多くきていると言っていました。四十年前のコピーを見て今の若い人たちが何かを考える。そのコピーについて先輩たちが何を思っているかを受け取る。考え抜かれた言葉というものは、いつまでも眺めていたくなる。コピーライターにとってとても幸福な空間。
鎌倉の陽の光はあざやかで、空気もとても澄んでいて、
「ひとりごとが多いのは、東京にばかりいるからじゃないかな。 JR九州」
という仲畑さんのコピーが沁みる東京への帰り道でした。
展示は4月21日(日)まで。天気がよくありますように。
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