あの人を思い出す9月2日。
9月2日。世の中的には今日は「宝くじの日」らしいです。宝くじほど割りに合わないギャンブル(あえてギャンブルと言わせてください)は他にはないと思います。テラ銭52%なんて昭和のサラ金並みというかぼったくりなのになぜかみんなニコニコして並んでまで購入するフシギな力が宝くじにはあるようです。そう言う僕も暮れの年末ジャンボ宝くじだけは毎年100枚購入しています。
1990年。僕の入った西鉄エージェンシーという会社はその前の年に派手な詐欺に引っかかって社長が交代したり、ボーナスが出なかったり笑い事では済まされない状態だったのになぜか社員は明るくて仲良く毎晩騒いでいました。1軒目2軒目はあちこちですが、梯子の最後はいつも「ハイサイ」でした。名前はハイサイなのに、人気のメニューは沖縄とは無関係な餃子とカレー。ここに行けば必ず誰かに会えました。特によく会うのが一つ下の後輩男4人組。やんちゃな井島君、前向きの吉田君、人のいい林君、いじられ役の弥永君。それぞれがいいキャラクターで笑いが絶えません。「社内のあの人とあの人はできてる」「独身寮に女子が泊まりに来た」「角さんがまた何かやらかしたらしい」という内輪ネタか「ガリガリ君とブラックモンブランはどっちがうまい」や「ノストラダムスの大予言には続きがあるらしい」や「年末ジャンボが当たったらどうする?」という中2男子並みのほんとにどうでもいい事を言い合ってました。宝くじの話題のときは井島くんが「1等当たったらハイサイ貸し切ってシーナ&ザ・ロケッツ呼んで朝まで飲む」と言うとマスターから「6000万(その年の1等は6000万でした)あればビルごと買える」とオヤジ的なツッコミが入り酔ってるのでみんなで爆笑。そんな中、なぜかクールに弥永くんが「仮に100枚買うなら下2ケタが00から99までのブッ通しで買えば7等300円が10本と6等3000円が1本は必ず当たるので少なくとも6000円は返ってくる」というスパか週刊プレイボーイで仕込んだであろう知識を披露してみんなを妙に感心させました。
見た目は小柄、ボサボサのパーマ頭で飼っていた猫も嫌がるほどヒゲが濃くて四季を通して同じにしか見えない茶色のジャケットを着てボソボソ小さな声で話す弥永君。惚れっぽいけどモテなくて、フラれてもフラれてもやっぱり惚れっぽかった弥永くん。寝坊魔で遅刻魔の弥永君。酒が好きで特に強い酒が好きでそんなムチャな飲み方してると体壊すぞ、とみんなが心配になる弥永君が突然営業からコピーライターになったのです。
その年の暮れ、新人コピーライターの弥永君に西鉄の高速バスで帰省を促す交通広告の仕事が入りました。彼が書いたコピーは、「年末ジャンボ大移動。」当時のバブルの空気とも合って僕はわりと好きでした。あれから随分たちました。弥永君はほんとに若くて早くに死んじゃってみんなで泣いたし、ハイサイも閉店したけど、年末ジャンボを買うたびにあの日に戻ることができます。なんてことを思った今日は9月2日、宝くじの日です。
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