ひたち20号
その日の出張は日帰りで、夕方にはいわきを出ました。
復路の車内。
私はほとんど寝ていました。
(すみません、今回は車内の話ではありません。)
新幹線も降りて、銀座線で18時ごろ虎ノ門駅に。
今年はじめて冬の匂いを吸い込んだのは、そのときだった気がします。
ただ、そんな美しい夕方にも、往路での出来事にも
浸っていられないほど、私は次の打ち合わせへと急いでいました。
駅から虎ノ門ヒルズへまでは一直線。
こんなしゃかりきに歩いているところを会社の人には見られたくないな、
とも思っていられないほど、ひたすら急いでいました。
なのに、前方から向かってくるその人のことが気になったのは、
自分の母親とちょうど同じくらいの背丈で、
ちょうど同じ年くらいの女性だったからかも知れません。
両肩に荷物を下げて、「てくてく」という効果音が聞こえてきそうな感じで、
にこやかな表情で歩いてくる、その女性。
私とすれ違う地点より1.5mくらい手前、
少しうつむいて、優しい声でつぶやいたのです。
「元気にしてますか?」
聞こえた瞬間はわからなかったけど、
すれ違い終わる頃には、その言葉が脳を通過して心に響いてきました。
誰を想って、つぶやいたんだろう。
今そばにはいない誰かを想ってこぼれ落ちた行く当てのないその独り言を、たまたま拾ってしまった私。
始まったばかりの冬の冷たい空気も合間って、
胸がぎゅうっとせざるを得なかったです・・・。
往路のおじいさん、復路の女性。
明らかに切ない状況なのに、
半分諦めかも知れないけど笑っていられる
柔軟で、心の根が深い人たち。
この出会いは、
ジタバタと進行方向に進むことしかできない自分にとって
なんだか偶然ではないような気がした
そんな、0泊1日のセンチメンタルジャーニー(日帰り出張)なのでした。