リレーコラムについて

ほんとうにあった怖い話/眉毛サロン

福宿桃香

その日、私は都内のとある眉毛サロンにいた。
もともと顔が左右対称なタイプではなく、
特に目の形や二重幅に差があることをコンプレックスに感じていたのだが、
眉毛をうまく整えれば、もしかしたら、それが少し誤魔化せるのではないかと考えたからである。

やるからには納得のいくものにしたいと思い、
サロンを選ぶ際には事前にSNSでリアルな口コミを熱心に調べた。
また、予約時に伝えられた「2〜3週間程度は眉毛を伸ばした状態でご来店ください」
というアドバイスに対しては、念には念を入れて1ヶ月は伸ばした。
そのため当日にはアマゾン奥地のマングローブのように生い茂っていたものの、
これも全て最高の眉毛のためだと思えば痛くも痒くもない。
こちらの不手際で微妙な仕上がりになることだけは、なんとしてでも避けなければいけないのだ。

清潔な待合スペースから完全個室の施術エリアへと案内される。

「本日はよろしくお願い致します。ご希望の眉毛のイメージはございますか?」
よくぞ聞いてくれましたとばかりに、私は事前に用意しておいたメモを手渡した。

このコラムで初めて私のことを知ってくださった方は意外に思われるかもしれないが、
私は思っていることを面と向かって正直に言うことが非常に苦手だ。
どのくらい苦手かというと、「マジでムリです」という意味で
「私で大丈夫でしょうか」と言うのが精一杯という具合である。
初めての眉毛サロンでも当然そうなることは目に見えていたため、
あらかじめ、希望の条件を参考画像とともに紙にまとめておいたのだ。

「ふむふむ、直線に近いアーチ型がご希望…という感じですかね?」
「ええと…そうですね。基本的には直線で、最後だけ少し下がってるといいますか…」
「かしこまりました。お客様は目が丸いのでちょっと太めが合うかと思います」
「太めというと…」
「有村架純さんとかの感じはどうですか?」
「あ、はい!お願いします」

担当のアイスタイリストさんは懸命にオーダーを汲み取ってくれた上、
眉毛アマゾン女を相手に有村架純さんと言ってくれる思いやりの心も持ち合わせていた。

「それでは、マーキングをしてからワックスで脱毛していきますね。
少しお時間かかりますのでよろしければお休みください」

私は安心感からか本当に眠ってしまった。

気がついたときには施術が終わっていて、
仕上がりをご確認ください、と優しい笑顔で鏡を手渡される。

 

え?ゴルゴ13?
これ角度50度くらいついてない?
悪魔に取り憑かれた有村架純さん?

 

私の眉毛はひらがなの「へ」に酷似した形になっていて、
眉頭から勢いよく斜め上に向かって伸び、目尻から1cmほどの位置でほぼ直角に曲がっていた。

 

どこで間違えてしまったのか。
失神しそうになりながら会話を思い返し、そこで大きな失態に気がついた。

私は「直線」ではなく「平行」と伝えるべきだったのだ。
目と平行で、最後だけ少し下がっている。
そう伝えなければいけなかったところを直線と言ってしまったために、
ブルーインパルスのごとくまっすぐなラインで斜め上に飛び立ってしまった。

「お客様、いかがでしょうか?」
アイスタイリストさんは、相変わらず聖母のように微笑んでいる。

「はい、あの、爽やかです」

 

ワックスで根元からきれいに脱毛された眉毛が
もう一度生えるまでにはたっぷり2ヶ月を要した。

その間、私は必死にメイクで平行眉を装い続けたが、
50度も角度がついた躍動感の塊のような眉毛を平行に見せるためには
相当な範囲を塗りつぶさなければならず、
結局、印象としてはほぼゴルゴであった。

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4日目は眉毛サロンでの怖い話でした。
貴重な20代の2ヶ月と引き換えに、
言葉の大切さを改めて知ることができた出来事だったと思います。

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