リレーコラムについて

わがリーマンショック!

名雪祐平

仕事がだんだん減った、というより、ごっそり消えた。

個人事務所を営んでいる。その売上高。
2007年 1億3000万円
2008年   7400万円(リーマンショック)
・・・
2011年   5000万円(東日本大震災)
2012年   4400万円

この金額はぼく個人の年収ではない。給料以外の、デザイン費や印刷費といった[外注費]、事務所家賃などの[管理費]、利益が出れば[税金]をここから負担する。あと[消費税]も。

フリーランスには、どんな仕事もWelcomeな人もいれば、何かしらルールをもって受ける人がいると思う。ぼくは前者のように器用にこなせる能力はなかった。
3つ、ルールがあった。

◯ その仕事は、おもしろいか(おもしろくできるか)
◯ その仕事は、勉強になるか
◯ その仕事は、お金になるか

3拍子そろう。無理してもやる。
2つはクリア。よろこんでやる。
1つしかない。相手による。
なんておこがましい! でも、そうやって自分を保つことではじめて利他、誰かのために働けるタイプだから。

ほかにも、競合プレゼンは参加しない。(好きなCD/ADから話があれば別だが)
何かをやらない、何かをやめるというのは、精神的にも肉体的にもストレスは減っていい傾向。

そんな、わが小さな世界にもリーマンショックがドーンと襲った。売上げが5600万円急減し、あまり間隔も開けず3年後には東日本大震災、次の年にはとうとうピークから8600万円減。いまが底なのか、もっと奈落があるのか? わからないのが恐怖。

そんな危機に何をやったか? 3つのルールを破ったか? 競合に参加したか? 営業に行ったか?
何もしなかった。考えて、何もしなかった。目先の利益だけを追わず、むしろルールにこだわり、こつこつと仕事のクオリティを上げていった。かたちになるかアヤフヤなものより、ちゃんとかたちになるものに集中した。数年間は苦しかったが、ほとんど運だと思うけれど、翌2013年には売上高9500万円まで急回復できた。

ただ、自分の仕事は読めなくても、世界の動向は読みたいと切に思った。経済的危機に敏感に対応できる知識も乏しかった。反省し、学びはじめた。政治やメディアに注意深くなった。経済事案の予測を立てて試行錯誤を繰り返した。

中東・欧州の地政学の講演に出かけ、国際情報サイト「フォーサイト」などの購読も始めたり、ジャック・アタリやマルクス・ガブリエル、ユヴァル・ノア・ハラリの思想に触れた。

素人の勘に過ぎないけれど、大揉めだったシャープ買収の鴻海決着も、ほとんどの人がはずした英国のブレグジットの国民投票も、ヒラリー優勢といわれた米大統領選のトランプ当選も当てた。そしてNYダウが史上最高値を更新した今年2月に、その後の大暴落もほぼ当てることができた。もちろんハズレも多々あったが。

コピーは時代を孕むものだから、経済、思想をかじり、大衆心理を読もうとすることでコピーの地力もついたかもしれない。

2020年、大不況の暴風雨。フリーランスなんか、激流に浮き沈みする笹舟。それでも流れを読め。魚影をつかめ。転んでもただでは起きない精神で。

何をするにしろ、自分の力で生き残っていかなければならない。
フリーランスがフリーのまま生きていきたいなら。

(次回は、わがグリコ森永事件!)

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