リレーコラムについて

コピーライターのプロセス価値③イノベーション

渡邉寛文

東南アジアへ旅行したときの話です。30代くらいの白人男性と20代くらいの東南アジア女性が仲良く歩いている姿を何度か目撃しました。現地のタクシー運転手さんが教えてくれたのですが、母国でIT職に就きながら物価の安い東南アジアに長期滞在し現地の女性と交際する欧米人が近年増えているそうです。いわゆるデジタルノマドっていうやつです。

インターネットは業務プロセスを変えました。働き手はノートPCやスマートフォンなどのデジタルデバイスをフル活用し、場所や時間にとらわれずに仕事をすることが可能になりました。リモートワーカーやクラウドワーカー、さらにはパラレルワーカーといった新しい働き方を生み出しました。一方、企業はオフショアやニアショアを進めやすくなり、コストを抑制しながら新しいリソースを確保することが可能になりました。こういったITの進展をテコにしたイノベーションを「デジタルイノベーション」と言い、業務の中間過程を革新的・画期的に変えることを「プロセスイノベーション」と言うそうです。プロセスイノベーションは最終成果物の在り方は変えずに、過程だけを変える点が特徴です。近年インターネット専業広告代理店は、広告制作部門やプログラマティック広告のオペレーション部門をコスト抑制が図れる地方に構えるなどデジタルイノベーション・プロセスイノベーションへの取り組みに積極的です。一方、総合広告代理店は対応が遅れています。歴史がある分、様々な背景が重なり経営判断が後手にまわってしまっているのかもしれません。

前置きが長くなりましたが、コピーライターはデジタル時代にイノベーションを起こす人材として活躍できる可能性があると考えています。

イノベーションはイメージ的には新技術の発明を核にした開発者にだけ許された技術革新のように捉えられがちですが、それだけがイノベーションではありません。既存の何かにアイデアを加えて過程を革新的に変えることもイノベーションです。アメリカのスーパーマーケットの生産方式を自動車の製造工程に取り入れた「トヨタのかんばん方式」だったり。

イノベーションを起こす上で重要なのは「コアコンピタンス」を特定することだと思います。コアコンピタンスはアメリカの経営学者ゲイリー・ハメル氏とプラハード氏が提唱した概念ですが、「他より優位性があり顧客を引き寄せる源泉となっている能力」と言えると思います。このコアコンピタンスを特定して他の要素をすべて削る、もしくは他の既存の要素をテクノロジーで代替することが次の時代を生き抜くイノベーションに必要な作業だと思います。

私はコピーライターには、「コアコンピタンスを特定しアイデアとともにイノベーションを起こすチカラ」が備わっていると考えています。望月さんのコラムの中で『コピーライターの「コピー」という言葉には「広告コンセプト」という意味があった』と紹介されていました。「広告コンセプト」が「商品に内在されている魅力」と「人を振り向かせるアイデア」を掛け合わせたものだとするのであれば、「コアコンピタンス」を特定し「アイデア」を加えてイノベーションを起こすことも可能だと思います。

デジタルディスラプションによって様々な分野の仕事がテクノロジーに代替されはじめています。ディスラプターたちからするとレガシーな仕事ほど良いカモです。Google・Facebook・Amazonを頂点としたデジタルヒエラルキーの末端に組み込まれるのか中心地点で立ち回るのかはITの活用度合いによって大きく変わります。

例えば、URLを入力するだけでサイトの大枠を丸裸にしてくれるSimilar Webというサービスがありますが、このサービスを使ってこのTCCのホームページの大枠を確認してみました。
https://www.similarweb.com/ja/website/tcc.gr.jp

すると、このTCCのホームページは60%以上が検索流入で訪れていて、検索流入者の10%以上が「リレーコラム」を目当てで訪れているということが分かります。トラフィックが少なく母数が分からないのでなんとも言えませんが、リレーコラムが結構な割合で読まれていて気を抜けないということがわかります(更新が遅れてしまい申し訳ございませんでした)。

仮にTCCのホームページの「コアコンピタンス」を「コピーライターに関する情報」と特定するのであれば、この「リレーコラム」を軸にコンテンツ拡張してトラフィックを増やしWEBメディアとして新しい収益源を確保する、という試みは「デジタルイノベーション」と言えると思います。一方、900人前後の会員だけで収益化できるまでの情報の質と量を担保することが難しいために、非会員の協力を仰ぎ会員の管理下のもとで記事を量産するということは「プロセスイノベーション」だと思います。TCCの存在意義である「日本の広告界のコミュニケーション技術の牽引」という役割にも大きく貢献すると思います。そんなことはやらないと思いますが。

ITリテラシーを高めたコピーライターが次々にイノベーションを起こす。次の時代に中心地点で戦うための必要な進化だと思います。

明日はコピーライターの進化とプロセス課題について言及する予定です。

NO
年月日
名前
5805 2024.11.22 中川英明 エキセントリック師匠
5804 2024.11.21 中川英明 いいんですか、やなせ先生
5803 2024.11.20 中川英明 わたしのオムツを替えないで
5802 2024.11.19 中川英明 ドンセンパンチの破壊力
5801 2024.11.18 中川英明 育児フォリ・ア・ドゥ
  • 年  月から   年  月まで