リレーコラムについて

ゴジラでした

渡邉洋介

学生のころの話です。ゴジラが好きでした。

1カ月間だけ、川北紘一監督のもとで働いたことがあります。
川北監督といえば、平成ゴジラシリーズの父とも言われる、
特技監督です。
場所は東宝スタジオの第8スタジオ。
ある戦隊番組シリーズの特撮シーンを撮る仕事でした。

朝早くから夜遅くまで、スタジオで、怪獣が暴れ、火薬が弾け、
煙が漂い、街が破壊される、というシーンを撮りつづけました。

砂ぼこりにまみれながら、その合間に、カメラの仕組みや
編集の仕方などを教えてもらうという幸せな時間。
あのゴジラの特技監督が、目の前にいる。
そのうえ、ゴジラの撮影秘話まで教えてくれる。
あの当時すでに還暦をこえていたけど、とにかく顔が若い。
かっこいい。

そんな、特撮の神様に、ぼくはとても平凡な質問をしてしまいました。
「なぜ特撮にこだわるのですか?」
川北監督は、ニコニコしながら答えてくれました。

「CGでなんでもできる時代だろ。でも現場って、1回きりだろ。
1回きりの現場の熱や空気や生々しさを大切にしたいんだよ。」

その1回に賭けること。そこで生まれた偶然を大切にすること。
そういう想いをもった人の手から、あのゴジラは生まれたのだ。
計算ばかりしていたら、計算したものしか撮れない。
自分のイメージ以上のものが撮りたいから、火薬で街を破壊する。
かっこいい。

撮影はその1カ月間で終わってしまったけれど、
それからも川北監督の仕事場へお邪魔して、ランチをご馳走になったり
していました。

そうして何年かたったある日、川北監督の突然の訃報を聞きました。

先日、CMの撮影で久しぶりに東宝スタジオに行きました。
そのとき感じた空気、うまく言えないのですが、
川北監督が見守ってくれているような気がしました。

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