リレーコラムについて

デコボコな道だから、弾むように歩けるんだってば

丸原孝紀

昨日は山下達郎さんのライブを堪能してきました。11年ぶりのアルバムをひっさげた、3年ぶりのツアー。「まってた!」の掛け合わせで、感動もひとしおです。21歳のときに出したアルバムの曲をファンキーに歌い上げる69歳の達郎さんの姿を見ながら、しみじみ思いました。何年生きてるかじゃなくて、どう生きてるかだなあ、と。

私と達郎さんをつなぐもの、それは、誕生日です。私と達郎さんが同じ誕生日、というわけではありません。私は、達郎さんも敬愛するザ・ビーチボーイズのブライアン・ウィルソンと同じ誕生日なのです。

誰もが認める天才でありながら、世間からの重圧と自らの理想に苦しめられたロックの神様、ブライアン・ウィルソン。そのドラマティックな人生を自ら振り返るドキュメンタリー映画『ブライアン・ウィルソン/約束の旅路』が、今年公開されました。

この映画でもそうですが、ブライアンの人生について語られるときにしばしばハイライトとして採り上げられるのが、『スマイル』というアルバムにまつわる物語です。

ザ・ビートルズを超えるべく、ブライアンが魂を込めて創ったザ・ビーチボーイズのアルバム『ペット・サウンズ』は、それまでのロックとはあまりにも異なる世界観であったため商業的に失敗。しかしそのあと発表したシングル、『グッド・ヴァイヴレーション』はバンド史上最大のヒットに。その勢いに乗って制作がはじまったのがアルバム『スマイル』でした。

ところが、『スマイル』はブライアンの精神状態の悪化、メンバー間の不和などが重なり完成しませんでした。そこから彼は失意の沼にはまり、ここでは語りきれないような人生の闇をくぐりぬけるのですが、ブライアンは、ブライアンの心は生きていました。なんと、制作が止まって37年を経て、彼はソロ・プロジェクトとして『スマイル』を完成させるのです。

ブライアン・ウィルソンという天才の話ではあります。しかし、ひとりの人間が不屈の精神を持ち、たくさんの人の支えを力にしながら信じられないような作品を生み出したという事実は、人生というものの不思議さ、人間というものの可能性を感じさせ、心を震わせるのです。

ブライアンと比べるとカスみたいなものですが、私も、コピーライター道を悠々と、という人生を歩んでいるわけではありません。

面白ければなんでもいいと無軌道だった学生時代まで、コピーも広告もろくに知らないままに入った広告会社での混乱ヤング時代、環境問題に殴られるような衝撃を受けてソーシャル獣道を爆走したゲリラクリエイター時代、そして、SDGsの波を受けて舗装された道に戻ってきているかのようだけれども舗装されたように見えるだけで実は険しく、という道を歩く、サステナビリティ・プランナーとしてのいま。

ときおり、なんもかもが面倒臭くなったり、疲れ切ったりして、もういいよ、勘弁してよ、と弱音を吐いたりもします。でもね、でもねさ、と、たまたま同じ誕生日だというブライアン、そしてブライアンの血が流れる音楽たちに、なでられるようにお尻を叩かれ、再び歩き出すのです。鉛筆を持って。紙を握りしめて。

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