ニュージーランド滞在記 ~Masa働く~
ニュージーランドの専門学校は週3日授業があり、
残りの2日は働いてよいことになっており、私はハーブ農園でアルバイトをした。
農園のオーナーは中国系ニュージーランド人夫婦で、
そこではニュージーランド人、日本人、中国人、インド人が勤めていた。
パセリ、セージ、ローズマリー、そしてタイム。スカボロー・フェアに行くのかい?
単調ではあるが、自然と向き合う充実した仕事だった。
そんなある日、ニュージーランドに拠点を置くCMプロダクションから連絡あった。
「日本、そしてアジアの企業向けのロケコーディネーターとして働かないか?」
というオファーが私に突然やってきたのである。
Curious Film。映画「ホビット」とコラボしたニュージーランド航空
「壮大すぎる機内安全ビデオ」など、カンヌやアドフェスの賞を取った作品の
制作プロダクションとしてその名を馳せる名門である。
やさしい世界でゆっくりと時間が過ぎるハーブ農園と刺激的でBusyなCM制作。
広告の世界が嫌いになったわけじゃない。
ただ少し違う道も歩いてみたかっただけ…。
「その気があるならCEOに話をしてみるから」。
一晩考えた末、私は面接を受けることにした。
CuriousのCEO、マット・ヌーナン。
ロバート・デ・ニーロと、マーティン・スコセッシをミックスしたような
白髪のジェントルマン。
数々のビッグプロジェクトをこなしてきた巨人である。
マットとの初顔合わせで、私はこれまでの経緯、
広告業界での経験と映像制作への熱意を嘘偽りなくひとつひとつ語った。
長い沈黙。そして…
Cool
マットは私の目を見ながら静かにそう答えた。どうやら採用のようだ。
次の瞬間、私とマットは力強く握手した。
ついにニュージーランドで広告業界にカムバックしたのだ。
しかし、ロケコーディネーターの仕事は甘くないことはよく知っている。
それからの私は必死でニュージーランドをかけまわり写真を撮り集め、
機材レンタル会社に出向きレクチャーを受け、
英語での専門用語を片っ端から覚え、現地のスタッフと次々に会い、
モデル事務所のHPをチェックし、
そして日本のプロダクションにメールを送り続けた。
悪戦苦闘していたある日、私は思わずマットに助言を求めた。
「Hey Masa、焦るな。俺たちの仕事はサーフィンみたいなものさ。
はじめはなかなか乗りこなせない。何度も海にドボンだ。
しかし、あるときフッと波に乗れるようになる。
いつかそんな日が必ず来る」
こんなクールな励まし方ができる大人に私はなりたいと思った。
そして、悩みはいつしか波の中に消えていた。
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