大学名はコピーかもしれない
ちょっと前に、
「京都造形芸術大学」が「京都芸術大学」へと名称を変更し、昔から「京芸」として親しまれてきた「京都市立芸術大学」がそれに反発……といった出来事があった。
京都市立芸術大学からしたら、「京芸」が2つになるわけなので、たまったものではない。
後ろ指をさされることは、京都造形芸術大学にもわかっていたはずだ。
でも、それでも!それでも喉から手が出るほど欲しかった名前が「京都芸術大学」だったのだ。
話は変わるが、「大阪芸術大学」という大学がある
(私の母校である)
美大に疎い人に大阪芸大の名前を伝えると「へぇー!すごい」と感心されることがある。なんとなく名前的に阪大みたいに聞こえるからだろうか。
しかし、実際はめちゃくちゃに私大である。塚本さんという一族が経営されている。
説明がちょっと難しいのだが、大阪芸術大学は、聖母マリアのように慈しみにあふれた大学であり、芸術を志し、尚且つきちんと学費を納める人には、なりふりかまわず……じゃなかった、すべからく学ぶ場を与えてくれる素晴らしい大学だ(難しい学科も一部あるそうです)
にもかかわらず、美大に疎い人には、東京藝大の大阪的なヤツ?と勘違いしてくれる。
「大阪芸大」
なんて仕事のできる名前だろうか。
先ほどの京都造形芸術大学は、大阪芸大を長年、「ズルい!」思っていたに違いない。
大阪芸術大学は、大阪と奈良と和歌山の間にある。近鉄沿線の喜志駅が最寄駅。最寄駅といいつつも、そこから大学までは3kmある。学校のバスに乗り込み田園地帯を抜け、山へと向かう途中に大学はある。にゅっと突き出した校舎はまるで要塞のよう。あまりに自然が豊かなので、いろんな動物が出現する。
ある日、警備員さんが
「やるんか!オラァ!」
と野太い声で叫んでいたので、何事かと思ってみてみると、ニホンザルと格闘していたことがある。
夜に真っ暗な学校の裏道を歩いていたら気づかずウリ坊を蹴ってしまった、という人もいたし、校舎にフクロウが巣を作ったこともあった。
大阪芸大には、ちゃんと一般教養の講義もある。
とても慈悲深い大学なので、英語のテストではスペルがわからなければ「カタカナ」で書いてもよかった。
私が受けていた英語の講義には、自らを「魔女」と称する学生がいた。彼女はいつも全身黒ずくめだった。靴底がレンガくらい分厚いブーツをはいていた。
先ほどの英語の講義では、ブーツが巨大すぎて教室の下駄箱に全然おさまらず、下駄箱の天面に「ドスン!」と置いていたのを思い出す。
そういえば彼女は、学食でいつも英字新聞を読んでいた。英語が得意だったに違いない。
「カタカナで答えてもよい」という英語テストに魔女としてどう思っていたのだろうか。
大阪芸術大学にはのほほんとした空気が構内に満ちていて、牧歌的でとても心地よい。
私はそこで彫刻を学んだ。
木工はもちろん、石彫も金属加工も何のその。設備も立派で広い作業スペースが自由に使えたので、巨大なものが作りたい放題だった。
卒業制作で作ったゴリラ
何か専門的な道具や技術が必要であれば、工芸学科の金属コースにお世話になるなど、横のつながりもあって、その気になればなんでも作れる感じがあった。
あまりに楽しかったので、まだまだこんな暮らしがしたい!と院に進んだのだが、院にまで進む人はかなり少数で、彫刻コースには私を入れて2人しかいなかった。
しかし、もうひとりの同級生は、下宿先に引きこもり次第に学校に来なくなった。作品の合評もわたしひとりで受けることに。仙人のようなひげがモジャモジャの先生と、1対1で向き合うのはとてもつらい。
下宿先に閉じこもる彼に何をしているのかと尋ねると「筋トレ」と答えた。彼はたまに見かけるたびにどんどんムキムキになっていった。
ひとり教室にこもり、なんだかわからないものを作る。
「誰にも見てもらえないのに、なんでこんなことしているんだろう」という考えに滲み出してきて、次第に私自身も何も作れないようになった。
そんな時に出会ったのが、デイリーポータルZだった。
デイリーポータル Zは、あらゆるメディアが勃興しては消えていくWebにおいて、2002年から19年間、おふざけを続けてきた恐るべきサイトである。私がはじめてサイトを認識した2007年頃ですら、いくらサイトを遡ってもおふざけのアーカイブが無限に存在するのを見て戦慄したのを覚えている。
そんなデイリーポータルZには一般投稿コーナーがある。そこに大学で作っていたものを何気なく投稿したら、編集部の方々が丁寧に読んでコメントをくれた。
とてもとてもうれしくて何度も読み返したのを覚えている。
そんなデイリーポータルZでは今でもたまに書かせてもらっている。
私の第二の母校的な場所である。
当時作った「ヤマザキ春のパン祭り」という作品
デイリーポータルZで文章を書くことの楽しさを覚え、なんやかんやあって今はコピーライターを生業にしている。
巨大なゴリラを作っていたはずなのに。人生何が起こるかわからないものである。
ひきこもっていた同級生の彼は、ムキムキになった体を生かし、今、静岡県警で働いているらしい。
美大出身ということもあり、容疑者の似顔絵を描いたりしているそうだ。
人生何が起こるかわからないものである。
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