リレーコラムについて

旅・その4「なぜ山に登るのか」

細川直哉

僕の大好きな知人に石川直樹という写真家がいる。

北極点から南極点まで人力だけで旅したり、エベレスト含め七大陸最高峰登頂世界最年少記録を打ち立てたり、熱気球で太平洋を横断しようとして漂流することになったりした彼だが、冒険家と呼ばれるのは好きじゃなさそうだ。
冒険家という肩書きになった瞬間、冒険を「目的」にしなければいけなくなるのが嫌なのだと思う。ふらっと好きな時に好きな場所に出かけて気づいたら人類初とかとんでもない記録を打ち立ててたりするが、あくまで彼は飄々としている。
「目的」というものからさえも自由でいたいんだろう。

そんな石川さんと、宮古島の海で宮古ブルーの青い波に揺られながら写真を延々撮り続けるという仕事をしていた時のこと。(彼はその時、宮古島に移住していた)

雪崩に阻まれ残念ながら登頂を断念したK2にもう一度どうしても登りたいと言う。すでに9000人以上が登頂に成功しているエベレストに比べ、K2は未だに400人足らずの登頂成功、しかも登頂に成功しても70%の人しか生還できないという「世界で最も厳しく難しい山」。マイナス30度と東京の3分の1しかない酸素濃度の中で頻繁に起こる雪崩や滑落や凍傷の危険の中を、「命をかけてなぜそこまでして登るのか?」と、彼に聞いた。

やはり登頂した時の達成感だろう

 

と思ったら、彼の答えは全然違った。

「登頂に成功した時は、もう苦しくて死にそうで何もかも使い果たした感じしかしない。それよりも、山を降りてから一日一日経つごとに徐々に生気が戻ってきて、やった!また生まれ直したぞー、という感覚がたまらないから、山はやめられないんですよねー笑」

 

生まれ直したい。

 

最高峰に登った者にしか見えない「境地」があるんだな。

日々、僕らもそれぞれ、自分の山を登っている。
なるべく手抜きしてラクに登ろうとしがちな最近の自分は、まだまだだなあ、と思った。

次にバトンを渡すのは、松元篤史さんです。
バーン!と勢いで突っ走りがちな僕らドリルの仕事を、柔らかい視座と丁寧な言葉でキュッと締めてくれる才人です。

それでは、みなさん、いい旅を!

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