朝倉勇さんの話
手紙とは、
その人が残してあげられる最高の思い出の品だ。
7月の文の日に流れるラジオエッセイで
ゲーテの名言を紹介させていただきました。
あまりに素敵なことをゲーテが言うので
私が添えたのはこんな言葉だけ。
文面に悩み、時には筆がとまって
インクが滲んだ手紙の愛おしさよ。
このことに気づかせてくれたのは
惜しくも今年6月17日に亡くなられた、
朝倉勇さんでした。
文の日のエッセイを書いていたのも6月のこと。
ちょうど朝倉さんのことを思い出していたこともあり
訃報を耳にしたときは、ただただ呆然としました。
以前のコラムにも書きましたが
朝倉さんとの出会いは、
TCCホール・オブ・フェイムの顕彰式でした。
真摯な受賞コメントに感銘を受けて
私が挨拶に伺ったのがきっかけです。
長年コピーを
手紙だと思って書かれてきたという朝倉さん。
大切な人にこそ、万年筆で手紙を書きなさい。
インクが滲んだ紙には思いがでますから。
そう教えてくださり、生まれて初めて万年筆を買いました。
以来、朝倉さんには新人研修の講師をお願いしたり
年賀状でのやりとりを続けさせていただいていました。
毎年毎年、朝倉さんは賀状に
「朝」の詩を万年筆で書いて送ってくださいました。
最後にいただいた2021年の賀状には
こんな詩が書かれてありました。
朝を迎えると
人は元気になります
朝は心の中を明るくするからでしょう
だから人は朝が
好きなのです
朝倉さんは45年間、書き続けられてきたという
「朝」の詩をまとめて一冊の本にもされました。
その覚え書きには、「朝よありがとう」と言って
1日をはじめてこられたという想いと、
90歳になられて朝の詩を続けるのがむずかしくなったと
書かれてありました。
その後、お体の心配をしつつも
お見舞いの手紙すら送らなかった自分を悔いています。
ご家族から四十九日を終えられたという
挨拶状をいただき
久しぶりに万年筆で手紙を書きました。
まだ落ち着かれない中、ご迷惑かもしれないと思いつつ
朝倉さんから教えていただいた
手紙の素晴らしさや万年筆の味わい深さ、
朝の詩の数々、言葉と向き合う真摯な姿勢…
そのすべてに感謝をお伝えしたいと思いました。
数日後、あたたかで滲みのある
奥様からの手書き文字のおたよりをいただきました。
万年筆のことを覚えていてくださり
主人にはとてもうれしいことと思います。
美しく、優しさの滲む文字でした。
人は誰しも、いつしかこの世を旅立ちます。
でも、その人がのこされた言葉や想いは
ずっと生き続けるのだと思います。
そうした言葉を、ひとつでも、ふたつでものこせるように。
今の私にそう気づかせてくださったのも朝倉さんです。
心よりご冥福をお祈りいたします。