リレーコラムについて

紫の円楽さん

木村亜希

2022年5月のある日、私は後楽園ホールにいました。

子どもの頃からの「東京さ行ったらしたいこと」リストのひとつ
「笑点の公開収録を観にいく」が叶ったのです。

笑点の公開収録は、なかなか当たりませんでした。

笑点のホームページからも応募できるのですが、
“はがきとネットでは、はがきのほうが当たりやすい”
   ※(注意)日本テレビがそう言ってるわけではないので真偽のほどはわかりません
と個人の方が書いているサイトを読んでさもありなんと思い、
番組の最後に“公開収録のお知らせ”の白い文字が出ると
高速で宛先を書きとっては「はがきで応募」してましたが、
かすりもしないまま月日がながれておりました。

そしてコロナで笑点もリモートに。

2022年の年明けにいちど募集があったものの中止になり、
そしてまた春にぽっと募集があったので、今ならライバルも油断しているだろうと
はがきいっぱいに積み上げた座布団の絵を描いて応募したところ・・・

当たりました。

2年3ヶ月ぶりの、後楽園ホール収録に。

やったーーーと思う反面、当たっちゃったものの
「円楽不在の回の笑点でよいのか?」

いや、でも当日サプライズで顔を出してくださるかもしれないし
(楽屋に差し入れにいらした日もあるとのことなので、ほんとに来ていたかも?)、
「代演」が誰なのかも楽しみだし。

はがき出す以外、こっちが何か頑張ってるわけじゃないので
あんまり喜ぶのも申しわけないような気もしつつ、
落語の神に感謝しながら後楽園ホールへ。

後楽園ホールは、階段の落書き群からして、ここで初めて観るのが
格闘技じゃなくてごめんなさい、というようなホールです。

ディスタンスを保つため、一席ずつ空けて座り、
司会の昇太師匠も観客席には座りません(冒頭のアレに映り込むのもちょっと夢)。

舞台上の提灯には、出演者の名前が書いてあり、
欠席の“円楽”の提灯には紫の灯がともっていました。

その日の収録【6月5日(日)6月12日(日)放送分】は演芸コーナーはなく、大喜利はレギュラー陣と
若手の鈴々舎馬るこ、立川晴の輔、蝶花楼桃花、春風亭昇也、柳家わさびが出演
(若手と言っても平均年齢42.8才ですが。広告業界か!)
舞台は華やかで、みなさんのあの着物の色は思っているよりさらに鮮やかで、
前説の愛楽さんのモノマネも面白く、オンエアではカットになるような応酬もばっちり見られました。

でも、円楽さんがいないんだよなあ。

個人情報は保存してないはずだから
「この人、いちど当たってるから外しとこう」
という処理はしないはず(と信じたい)、今後も応募しつづけて
いつかは完全版の笑点の収録に参加したい。9月の最終週も
消印締め切りまでにはがきを投函しなくちゃな・・・と思っていた矢先。

中学からの同級生からYahoo!ニュースが転送されてきました。

六代目、三遊亭円楽さんの訃報。

え、いやいやいや、嘘でしょ、なんで?

「笑点メンバーが弔問に」「ミヤネ屋で山田隆夫が号泣」「パンと鰻の差し入れ」だの、
テレビで、ネットで、円楽さん関連の記事や追悼番組ばかり追いかけました。

なんで? って言っても、リハビリの経過報告で映像が映った時のやつれように
(あれ?)って感じたのも事実なんですが、それは脳内で無視することにしていました。

今まで数々の推しの落語家さんに何かあっても、自分のブログに書くとか
「落語好き」な誰かに連絡して嘆いたりするしかなかったのですが、
“楽さん”の場合は違う。

「私の中では円楽さんじゃなくて楽太郎なんですけどね」と書く人に何人も何人も遭遇。
だって40なん年、ほぼ毎週テレビで見てるんだもん、顔見る頻度は親戚以上。

とーぜん笑点毎週つけてる人ばっかりで世の中構成されてるわけではないですが
私の情報空間の中では大事件でした。

協会の枠を超えて寄席の番組が組めるようにしたいと
思っていた円楽さん。

リハビリ中の助っ人として、東西も所属協会も超えて、
どえらいメンバーが円楽さんの座布団に座ってました。

[ 2月~9月リハビリ中の代演者](若手大喜利の賞品による出演を除く)

桂文珍

春風亭小朝

笑福亭鶴光

柳亭市馬

月亭八方

桂竹丸

桂米團治

桂南光

桂米助

立川志らく

橘家文蔵

桂三度(世界のナベアツ)

月亭方正(山崎方正)

桂文枝

春風亭鯉昇

立川生志

三遊亭白鳥

春風亭一之輔

「・・・わかりました。ほな、出まひょか」(誰?)
などと、それぞれの師匠が出演を快諾した瞬間があったんだ!
と思うとそれだけでドラマ~。

大喜利は「落語」ではないけれども、
それでもこのメンバーが座布団に座ってる絵を
夜中や早朝じゃない時間帯の地上波で見られるのはすごいことなんやで、
と畳(は、ないけど)を叩きながら毎週感動してました。

この「快諾の輪」が実現してたのも、円楽さんの人徳ゆえだったんだろうと
今さらながら思います。

「ユートピアは落語の中にある」
「日本人の忘れ物は落語の中に取りに来ればいい」
というインタビューも紹介されていて、
日テレニュース 円楽が現代に問う「忘れ物は落語の中に」 (ntv.co.jp) より

そんな談志師匠みたいなことを(落語とは“人間の業の肯定”)おっしゃってたんだなぁとか、
はたまた、若き日の秘蔵映像見てただただカッコいいなぁと思ったり。

追悼映像の中では、先代圓楽師匠も歌丸師匠もこん平師匠もお元気なので、
なんだか彼岸と此岸の境目がわからなくなりながら神無月を過ごしています。

私(たち)は、粋でオシャレな落語の兄(あに)さんをなくしてしまいました。

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TCC新人賞同期、富田克人さんからバトンを受け取りました、
木村亜希です。

富田さんのコラムを読み、コピーライターも流派(所属)は違えど
似たような感じで仕事してるんだなーという連帯感を感じています。

1週間よろしくお願いいたします。

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