街の明りの下で書かされています
コピーライターよ。
東京コピーライターズクラブの皆の衆よ。
君らは、どうしても書くべき言葉を持っているか。
ある思い出について語りたい。
1980年代終わり頃の話だ。
わたしは、二十代のはじめだった。
その夜、
先輩に連れられて六本木のある店に行った。
それは、青山学院のOB達が集まる場だった。
わたしは違う学校に通っていたのだが、たまたま誘われたのだ。
たしか「ウイナーズ」という名前の、
お坊ちゃんが所属するようなサークルの集いだった。
その集まりの輪のなかに、
前からよく知っている一人の詩人をみつけた。
彼は、旧くからの仲間との再会に、
とても打ち解けた様子で、かなり酔っていた。
わたしはその詩人に、あまりにも憧れていたので
軽々しく話しかけることができなかった。
だが、本当はわたしは、
彼に手紙を書いてでも教えてほしいことがあったのだ。
彼が、仲間の輪からはなれて手洗いに立った。
今しかない。
ついていき、となりに立ち、わざとらしく用を足した。
わたしは、訊いた。
「質問があります」
急すぎる。
彼は、用を足しながら
しかし、驚いた様子もあまりなかった。
なにも反応がなかったので、
ずいぶんとぶしつけな話だが
わたしも酔っていたのだろう、重ねて尋ねた。
「あなたの詩に」
彼は、はじめてこちらを見た。
「 月にくるまり 闇に吠え
という一節があります。
ふつうは、
闇にくるまり 月に吠え
と書くのではありませんか。
どうして逆にされたのですか」
彼は少しだけ笑って答えず、手を洗いはじめた。
わたしが、自分に激しく後悔して逃げ出したくなったとき、
詩人は、手を拭いながら答えた。
「どうしても」
その詩人の名前は、尾崎豊という。
コピーライターよ。
東京コピーライターズクラブの皆の衆よ。
君らは、どうしても書くべき言葉を持っているか。
映画の連載コラム、更新しました。
今回観たのは、『神々のたそがれ』
http://www.machikado-creative.jp/planning/6817/
クソすごい映画でした。
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