話、つくってませんから。(山口百恵の巻)
梅田さんからのバトンとあらば、受け取らないわけにはいきません。
なにせ梅ちゃんは、一昨年に30thを迎えた我らTCC同期の最高新人賞受賞者。
おそれ多くて断れるはずもないし、断る理由もない。光栄です。
とはいうものの、リレーコラム書くのってもう何回目だっけ?
今回ばかりは何を書こうか思いつかない。
コロナ禍で日常が地味ということもあるし、コロナのことを書けば暗くなる。
さりとて残念なことに、みんなの背中を押したり、教訓めいたことをお示しできるほど
筆のチカラも持ち合わせていない。
そうだなあ、僕がみなさんよりもまさっていることがあるとすれば、
みなさんよりちょっとだけ長く生きているということぐらいかな?
で、長く生きていると、漫画みたいな嘘のような本当の話がいくつかあるもので、
今回はそんな話をしてお茶を濁そうかと。
それも、レジェンドとの秘話を。
ということで、まずはこの人との話。
時代は昭和。
10代のまんなかの頃に遡ります。
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その日は、学校の体育祭だった。
理由は忘れたが、この年は代々木公園陸上競技場(通称:織田フィールド)を借りて行われた。
競技場の最寄り駅は原宿。
僕はいつもより若干遅めの時刻に、内回りの山手線に乗り込んだ。
乗車率200%。新宿からの人の波はハンパない。
僕は一気に入口付近から座席の方へと押し込まれた。
その勢いで前に座っていた制服の女子学生の膝に、僕の膝が結構な強さでぶつかってしまった。
彼女は少し顔をしかめた。
「あ、スミマセン。」
網棚のパイプに両手で捕まり踏ん張りながら、その女子学生に詫びた。
彼女はほんの一瞬、上目遣いで僕と目を合わせ小さく頷き、再びうつむいた。
「え?」
その顔に見覚えがあった。
いや、見覚えがあるどころか、日によっては脳みそのほとんどが
彼女で占められている時もあるぐらいよく知った顔だった。
当時の思春期の少年たちにとっては、ある意味絶対的存在。
「や、山口..、百恵?!」
再び彼女が顔を上げた時、その疑念は確信に変わった。
日出女子学園の制服、ホクロの位置、そう、まぎれもなく山口百恵である。
時期としては『横須賀ストーリー』が発売される少し前ぐらい。
もうすでに充分すぎるほど有名だった。
にもかかわらず、なんで、こんな満員電車に?
ふつうに通学してるのか?
パニックにならないのか?
いや、そんなことより、いま僕の膝に伝わっている膝小僧のゴリゴリ感は、
あの山口百恵の膝小僧から伝わってきているゴリゴリ感であり、
おそらく山口百恵と膝をゴリゴリしたことあるやつなんて
日本中探したっていないだろうし、
百恵ちゃんだって今後膝と膝をゴリゴリすることなんてないだろうし。。。
パニックになっているのは、車内で僕だけである。
ほかの誰も彼女に気づいていない。
♪〜あーなーたにーおんなの子の一番大切なーものをあげるわ〜♬
ウォークマンもしてないのに(当時まだない)聴こえてくる彼女の歌声。
白くなっていく背景。。。
「次は原宿〜」
そこに割って入ってきたのは、なんとも野暮なアナウンス。
僕たちを引き裂く声。
依然、膝と膝は当たったままだ(言っておくが故意ではない。動こうにも動けないのだ)。
電車を降りるべきか否か。。。選択に迫られる。
たしか日出女子学園は目黒。このまま目黒まで行ってしまおうか。
それとも体育祭を目指すべきか。
天使と悪魔の声が交互に囁く。
結果、僕は体育祭を選択した(真面目か)
とはいえ、いわゆる膝が笑っているせいで体育祭の結果は惨憺たるものだった。
当然のごとく、このことはクラスのみんなに話した。
すると翌日、その時間のその車両はウチの学校の生徒で埋め尽くされていた。
それは数日間つづいた。
でも、百恵ちゃんはその後全く姿を現わさなかった。
しばらくして、あまりにもクラスの男子の多くが毎日遅刻してくるので、学校が調査を開始。
結果、職員室に呼び出されて、こっぴどく叱られた。
青春の一ページ。
いまだに山口百恵と聞くと、右膝が疼きます。
ほんとにあった話です。つくってませんから。
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